あと一歩で手が届く場所まで来たところで、二人は立ち止まった。
驚きに満ちた瞳。
信じたいのに信じきれない表情。
まるで幻を見ているようだった。
先に口を開いたのはテリィだった。
震えるほど小さな声だった。
「……キャンディ?」
その呼び方だけで十分だった。
7年という歳月が、一瞬で消える。
キャンディの唇がわずかに震える。
そして。
「……テリィなの?」
声になった瞬間、胸の奥で何かがほどけた。
間違いではなかった。
幻でもなかった。
目の前にいるのは。
確かに。
あの日、雪の夜に別れた人だった。
二人はしばらく何も言えなかった。
ただ見つめ合う。
笑えばいいのか。
泣けばいいのか。
何を話せばいいのか。
何ひとつわからない。
けれど。
互いの顔を見た瞬間に浮かんだのは、あまりにも複雑で、あまりにも懐かしい笑顔だった。
まるで長い夢から覚めたばかりのように。
そして二人は、ようやく同じ時間の中へ戻ってきたのだった。
二人はしばらく、その場から動けなかった。
積み重なった時間はあまりにも長い。
雪の降る日に別れてから今日まで、互いに別々の人生を歩いてきた。
それなのに今、目の前にいる。
夢でも幻でもなく、その事実だけで胸がいっぱいになり、言葉が続かなかった。
不意に、背後から声が飛んだ。
「テリュース、知り合いか?」
テリィははっと我に返った。
隣には壮行会へ同行してきたマネージャーが立っている。
マネージャーは不思議そうに二人を見比べていた。
「あ……ああ」
テリィは慌てて答える。
「すみません。先に行っててください。すぐ行きますから」
「わかった」
マネージャーはそれ以上何も聞かなかった。
手にしていたタキシードを持ったまま、人混みの向こうへ消えていく。
再び二人だけになる。
だが、今度は余計に言葉が出なかった。
何を話せばいいのかわからない。
元気だったか。
久しぶりだな。
そんな言葉では足りない。
会いたかった。
そう言うには、あまりにも多くのものを抱えすぎていた。
胸の中に言葉だけが溢れているのに、一つも口から出てこない。
そして結局、最初に出てきた言葉は、あまりにも唐突だった。
「喫茶室で待ってて」
「え?」
キャンディが瞬きをする。
「すぐ行くから」
それだけ言うと、テリィは踵を返した。
「ちょ、ちょっと待って――」
キャンディが呼び止める間もなかった。
テリィはそのまま人混みの中へ走って行った。
キャンディは呆気に取られたまま、その背中を見送った。
「なによ、それ……」
思わず苦笑が漏れる。
戸惑いながらも、キャンディは言われた通り喫茶室へ向かうことにした。
その途中、
「ああ、キャンディ」
聞き慣れた声がした。振り向くとマーチン先生だった。
「まだこちらの先生方と話がありそうなんだ。先にホテルへ戻っていてもいいんだがね」
「わかりました。ではホテルで」
軽く会釈を交わし、キャンディは再び歩き出した。