二月の足音が少しずつ近づいていた。

インディアナの冬は相変わらず厳しかったが、診療所の窓辺には時折柔らかな陽射しが差し込むようになっていた。

その日の午後、キャンディは診療所の事務室で一枚の書類を受け取った。

それは正式な通知で、看護研修の日程が記載されていた。場所はシカゴ、予定通りだった。

キャンディは書類へ目を通しながら、小さく息を吐く。そして次の瞬間、自然と笑顔になった。

研修開始は二月末。休暇願いも認められた。

研修前に三日間の休みが取れる。

本当に会えるのだ。

ニューヨークから帰った日以来、何度も手紙を交わしてきた。

紙の上ではなく、直接会える。


その夜、キャンディはいつものように便箋を広げペンを取ると、書き出しから少しだけ手が震えた。


テリィへ

正式に決まったので知らせます。

シカゴでの看護研修の日程が出ました。

二月の終わりです。

それから休暇願いも通りました。

研修の前に三日間お休みが取れます。

だから予定が合うなら、その時間を一緒に過ごせたらうれしいです。

私は2月26日の列車でシカゴへ向かいます。

到着は午後1時頃の予定です。


そこまで書いてキャンディは微笑んだ。

そして少しだけ照れながら最後の一文を書き足した。


今から楽しみで仕方ありません。

キャンディ


数日後。

キャンディからの手紙を読んだテリィは、しばらく便箋を見つめていた。

文面を何度も目で追う。

会える事実は胸が高鳴った。

けれど次の瞬間には現実も頭をよぎる。

今はホリデーシーズン公演を終えた直後だった。

『アントニーとクレオパトラ』の千秋楽は迎えている。

だが俳優が暇になるわけではない。

劇団では春へ向けた企画がすでに動き始めていた。

テリィが出演するのは、シェイクスピア作品を集めた朗読劇。

悲劇や喜劇の名場面、そしてソネットを織り交ぜた特別公演で、劇場を代表する俳優たちが日替わりで出演する企画だった。

さらに今回は、それと並行して新人公演の稽古にも関わることになっていた。

若手俳優たちへ台詞の間や舞台での立ち方を指導し、読み合わせにも立ち会う。

正式な演出助手ではないものの、主演を重ねてきた経験を買われて任された役目だった。

もちろん、自分自身の仕事でもある以上、途中で席を外すなら事前に劇場へ話を通しておかなければならない。

テリィは便箋を折りたたむと、その日のうちに劇場へ向かった。

まず演出家を捕まえる。

「二月末に4日ほど休みをいただきたいんですが」

演出家は眉を上げた。

「珍しいな。お前が休暇なんて言い出すのは」

「たまにはいいでしょう」

「恋人か?」

即座に飛んできた言葉に、テリィは危うく咳き込むところだった。

演出家は面白そうに笑う。

「図星か」

「……休暇の許可をもらいに来たんです」

「否定しないんだな」

結局、その日の話題はしばらくそれで持ちきりだった。

もっとも演出家は快く了承してくれた。

稽古計画を少し調整すれば問題ない。

取材日程も前後へ移せる。

今のうちに言ってくれた方が助かる、と。

劇場を出る頃には正式に休暇が確保されていた。

その夜、テリィは迷わずペンを走らせた。


キャンディへ

知らせてくれてありがとう。

俺の方も日程を確認した。

問題ない。いや、問題なくした。

ちゃんと休暇を取ったから安心してくれ。

2月25日の夜に二十世紀特急へ乗る。

シカゴ到着は翌日の午前11時。

きみより少し早く着くことになるな。

だから先に待っている。

もっとも、その2時間が長く感じそうだけど。

8年待ったことを考えれば誤差みたいなものか。


そこまで書いて、テリィは少し笑った。

そして最後に付け加える。


早く会いたい。

テリィ


封を閉じたあとも、テリィはしばらくカレンダーを眺めていた。

2月26日。

その日付だけが妙に特別に見えた。

今の彼には、その日へ向かう楽しみがあった。