もう何度目の口づけだっただろう。
唇が離れても、次の瞬間には、また自然に引き寄せられていた。
まるで離れていた年月を取り戻そうとするみたいに。
キャンディの頬へ触れたテリィの手が、そっと髪を撫でる。
柔らかな金色の髪が指の間を滑り落ちた。その感触さえ愛おしい。
テリィは小さく息を吐くと、再び額へ唇を寄せた。
こめかみへ、頬へ、そしてもう一度、唇へ。
キャンディは目を閉じる。
こうして触れられることが、まだ夢のようだった。
再会した時でさえ、こんな未来は想像していなかった。
手紙を書いたこと。
住所が書かれていなかったこと。
ニューヨークへ来たこと。
盗難にあったこと。
その一つでも欠けていたら、今この場所にはいなかったかもしれない。そう思うと胸がいっぱいになる。
また唇が重なる。今度は少し長く。互いの温もりを確かめるように。
離れても、また見つめ合う。
どちらからともなく微笑みがこぼれる。そしてまた引き寄せられる。
言葉はいらなかった。長い歳月を越えて、ようやく辿り着いた時間だった。
テリィの腕の中へ身体を預ける。
胸に耳を寄せると、規則正しい鼓動が聞こえた。
その音が不思議なほど安心できた。
抱きしめる腕に少しだけ力が込められる。
キャンディもそっと彼のシャツを握った。
暖炉の火が静かに揺れる。
窓の向こうには夜のニューヨークが広がっているはずなのに、今の二人には何も見えていなかった。
互いしか見えていなかった。時間だけが静かに過ぎていく。
やがてテリィがふと視線を上げた。暖炉の炎が少し弱くなっている。
赤く燃えていた薪が、いつの間にか小さく崩れていた。
「……」
何も言わず、その光景を見つめる。
そしてゆっくり立ち上がった。
「どうしたの?」
キャンディが尋ねる。
テリィは暖炉へ目を向けたまま答えた。
「薪を足さないとな」
穏やかな声だった。
暖炉の前へ歩み寄り、新しい薪をくべる。
火かき棒で静かに整えると、炎は再び勢いを取り戻した。
橙色の光が部屋を柔らかく照らす。テリィはそのまましばらく炎を見つめていた。
少しだけ冷たい空気を吸い込み、静かに息を吐く。胸の鼓動を落ち着かせるように。
やがて立ち上がった時だった。何気なく目を向けた壁の時計に気づき、その動きが止まる。
「……もうこんな時間か」
キャンディも振り返った。時計の針は、すでに零時を回っていた。
「あ……」
思わず小さな声が漏れる。二人は顔を見合わせた。
気づけば数時間が過ぎていた。
けれど不思議だった。長い年月を思えば、ほんの一瞬にしか感じられない。失われた時間を埋めるには、まだまだ足りない。
そんなことを思いながら、テリィは再びキャンディのもとへ戻る。そして何も言わず、その手を取った。
指を絡めるように握る。それだけで胸が満たされた。
長い遠回りの果てに、二人はようやく、同じ時間を歩き始めていた。
暖炉の前へ座る。炎の温もりが心地いい。
二人並んで火を眺める。誰も喋らない。それでも不思議と心地良かった。やがて身体が温まってきた頃テリィが立ち上がる。
「そろそろ本当に寝るか」
キャンディも頷く。だが次の問題があった。
「テリィ」
「ん?」
「やっぱり私、ソファで――」
「駄目」
即答だった。
「きみがベッド使ってくれ」
「それじゃテリィが休めないでしょう」
「俺は平気だよ」
「平気じゃないわ」
しばらく押し問答になる。そして数分後、テリィがため息をついた。
「じゃあ……これなら文句ないだろ」
そう言って寝室へ向かう。キャンディの手を引いて。そしてテリィはベッドへ腰掛けた。
「ほら」
当然のように言う。
「きみはこっち」
キャンディは固まった。
「え?」
「だから、きみは俺の隣」
「となり?」
キャンディの顔が真っ赤になる。
「テ、テリィ!」
「おかしいか?折衷案としては間違っていないが」
あまりにも真面目な顔で言うので反論できない。
確かに理屈としてはそうだ。だが問題はそこではない。テリィも気付くと次第に面白がった。
最終的にキャンディは観念して恐る恐るベッドへ入る。そしてテリィの隣へ横になる。
身体がぴんと伸びる。まるで看板みたいだった。その様子にテリィはつい吹き出した。
「そんなに緊張しなくとも」
「し……しないほうがおかしくない?」
即答だった。テリィは肩を震わせる。
「大丈夫さ」
優しく言う。
「何もしないから安心して」
そして少し考える。
「……いや」
首を傾げた。
「安心されるのも何か複雑だけど」
あまりにも正直で、キャンディは思わず笑ってしまう。さっきまでの緊張が少しだけほどけた。
テリィも笑う。そしてそっとキャンディの手を握った。
「キャンディ、おやすみ」
優しい声だった。キャンディも握り返す。
「おやすみ、テリィ」
暖炉の火は静かに揺れていた。
長い遠回りの果てに。
二人はようやく同じ夜を迎えていた。