婦人服売り場から戻ってきたキャンディの両手には、いくつもの紙袋が提げられていた。その隣を歩くキャサリンは満足そうな顔をしている。
「とりあえずさっきよりは揃ったわね」
「キャサリンさん、本当にありがとうございました」
「それがまだ終わってないわよ」
即答だった。
「外出着はこれから。それに上の階」
キャンディは思わず苦笑いになる。
一方で、待たされていた男二人はというと、ベンチに腰掛けていた。テリィは新聞を読み、マイケルは腕を組んだまま周囲を眺めていた。やがて二人の姿を見つけると立ち上がる。
「どうだった?」
「順調よ」
キャサリンは得意げだった。
「ね?」
キャンディへ話を振る。
「はい」
そう答えながらも、キャンディは少し照れくさそうだった。その時、マイケルが腕時計を見た。
「お、もう3時過ぎてる。どうりで腹減ったわ」
確かに午後3時を回っていた。そして同時に気づく。誰も昼食を食べていない。キャサリンが大きく頷いた。
「遅いけど、まだ買い物は続くからカフェにでも行きましょうか」
にっこり笑う。
「テリィの奢りね」
「もちろん、ご馳走させてもらいます」
キャサリンは満足そうに頷いた。
結局、4人は百貨店近くのカフェへ入った。窓際の席へ案内されようやく一息ついた。遅い昼食だったが、空腹だったこともあり皆よく食べた。
しばらくは穏やかな会話が続く。そして話題は自然とテリィへ移っていった。キャサリンが笑う。
「私とテリィが最初に会った時の話、聞いた?」
キャンディはテリィを見る。すぐに小さく微笑みかえしていた。
「いいえ、まだ」
「マイケルが打ち上げで酔いつぶれた時よ」
「姉さん」
「いいじゃない」
楽しそうだった。
「私が結婚する前だけど、真夜中に玄関が鳴ったから開けたらね」
キャサリンは笑いを堪える。
「マイケルが半分死んでたの。まあこの子、お酒強くないから、毎回そんな感じになるのだけど」
キャンディは興味深く目を向けている。マイケルは頭を抱える。
「姉さん、やめてくれよ」
「担いできたのがテリィってわけ」
キャサリンはマイケルの嘆きを無視して続ける。
「しかも本当に礼儀正しくてね。『遅い時間にすみません』なんて言いながら弟を担いでたの。しかも、その前に吐いてしまったらしくて、それもテリィが片付けてくれたんだって」
「だから、それからテリィ頭が上がらない」
マイケルは肩をすくめる。
「そんな感じには見えないけど」
テリィは即座に返す。キャンディは楽しそうに聞いている。
「それから何度も顔を合わせるようになったの。この子はすぐ酔い潰れるからテリィとケビン……ケビンには会った?」
キャンディはテリィを見たがすぐに気づく。
「はい、一度だけ」
「二人がよく送ってくれるのよ」
キャサリンはコーヒーを飲む。
「だから、世間はテリィもケビンも、弟のことも格好いい格好いいって騒いでるけど、私には3人とも弟みたいなものなのよね」
キャサリンは平然としていた。場が和む。キャンディも声を立てて笑った。その笑顔を見て、テリィは表情を緩めていた。
その時、キャサリンがふと思い出したように言う。
「ところで」
嫌な予感がした。テリィもマイケルも同時に顔を上げる。
「キャンディさんは、どうしてテリィのところにいるの?」
あまりにも自然な質問だった。だが空気が止まる。キャンディの手が止まる。言葉が出ない。何と説明すればいいのだろう。
ニューヨークまで来た理由。簡単には言えることではなかった。まして、それは2人の間の話。沈黙が落ちた時だった。
「そうだ」
マイケルが助け舟を出すように言った。
「トランク盗まれたんだよな」
話題を変える。
「ってことは鞄も必要じゃないか?」
キャサリンの目が輝いた。
「そうよ、私もそう思ってた!」
すぐに乗ってきてくれた。テリィはホッとした。
「テリィ、いいわよね?」
「もちろん」
あまりにも自然に即答する。けれどキャンディはまた慌てる。
「え、それはいいよ。紙袋もらったもの」
「これは商品を入れるものだろ。ちゃんとしたものは必要だ」
「でも」
「必要だろ、汽車に乗るんだから」
「テリィ」
「何だ」
「本当にそこまでしてくれなくても」
キャンディは困ったように笑った。
「最低限でいいし……それに、お礼はちゃんと帰ってから――」
「いいんだよ」
「でも、何から何まで……」
するとテリィは食い気味に言った。
「いいんだ」
まっすぐだった。
「俺がそうしたいんだから」
その瞬間、キャサリンとマイケルは完全に固まった。
ぽかんとする。そして顔を見合わせた。同じことを考えていた。
――ああ。やっぱり。
テリィは少なくとも、目の前の女性を特別に思っていることだけは間違いなかった。
誰に対してもこんな顔はしない。
誰に対してもこんな声では話さない。
マイケルは何度も見てきた。だからわかる。
キャサリンも同じだった。
そしてキャンディの方もまた、困ったように笑いながら、それでもどこかうれしそうだった。
二人とも気づいていないのか。それとも気づいていて認めていないだけなのか。
そこまではわからない。だが一つだけ確かなことがあった。
この二人は、ただの“友人”ではない。少なくとも。
友人という言葉だけで説明できる関係ではないだろうと。