スザナ・マーロウの訃報が新聞各紙に載ったのは、その週の金曜日だった。
年が明けたニューヨークの朝は冷たく、劇場街の歩道にはまだ昨夜の雪が薄く残っていた。
新聞売り場には特別版が並び、人々はコートの襟を立てながら足を止める。
ハムレットの成功以降、テリュース・グレアムは世間の注目を集める存在になっていた。
だから彼に関わる出来事もまたニュースになる。
スザナの死も例外ではなかった。
劇場へ向かう途中、何人もの人が新聞を広げていた。
誰も悪意など持っていない。
ただ悲劇を惜しみ、若くして亡くなった元女優へ同情しているだけだった。
それでも紙面には、いつものように物語が並んでいた。
事故のこと、片脚の切断する怪我のこと。
誰かが書き、誰かが編集し、誰かが見出しを付けた記事は、まるで長編小説の最終章のように美しく整えられていた。
そこにはこう書かれていた。
――俳優テリュース・グレアムを支え続けた女性。
――長年連れ添った婚約者。
――二人は結婚こそしなかったが、深い絆で結ばれていた。
これまで何年も積み上げられてきた記事を読み返し、関係者の話を聞き、世間が知っている物語を丁寧にまとめただけだった。
本人たちへ確認する必要があるとは考えもしなかった。
なぜなら、それはもう事実と同じだったからだ。少なくとも世間にとっては。
その朝、テリィは劇場の楽屋で一人新聞を開いていた。
窓の外には灰色の空が広がっている。今にも雪が降りそうだった。
数日前まで病室に通っていたことが、ずいぶん昔のことのように思えた。
スザナのいない世界には、まだ慣れなかった。
病院へ行けばまだこの世にいる気がする。
ふとした拍子に電話が鳴る気がする。
そんな錯覚が消えない。
だが新聞の見出しだけは容赦がなかった。
“テリュース・グレアムの婚約者、壮絶人生に幕”
テリィの視線がその一行で止まる。
長い間、何度も目にしてきた“婚約者”という言葉。
最初は小さな記事が、やがて大きくなった。
誰も訂正せず、誰も確認しなかったその結果が今、紙面の上にある。
テリィは新聞を閉じた。
怒りはなかった。もう驚きもない。そう書かれるだろうと思っていた。
むしろ奇妙な疲労感だけが残った。これが最後なのだと思った。
だが、スザナが亡くなったことで終わるのではない。
世間が作り上げた物語が、ここで完成してしまったのだ。
彼女は悲劇の女優となり、自分はその恋人となり、
二人は結ばれなかった運命の恋人として語られる。
これから先も、何年経っても、そうして記憶されるのだろう。
テリィは窓の外へ目を向けた。
雪はもう降り始めていた。
ゆっくり白い雪が街の上に積み重なる。
新聞は机の上に置いたまま二度と開くことはなかった。
記事に書かれた言葉だけは、いつまでも胸の奥に残り続けた。