「ポニー先生……」

キャンディは縋るように尋ねた。

「先生……運命って……あるのですか?」

ポニー先生はしばらく黙っていた。

揺れる蝋燭の火を見つめながら、静かに言う。

「そうですね……」

小さく微笑む。

「神様が最初から結末を決めておられたのかどうか、それは私にはわかりません」

キャンディは目を見開いた。運命を信じる人なら、もっとはっきり答えると思っていたからだ。

「ですが――」

ポニー先生は続ける。

「あなたとテリュースさんのお話を聞いていて、私は思うのです」

礼拝堂の静寂の中、声だけが穏やかに響く。

「あなたたちは、それぞれの時間を懸命に生きてこられたのでしょう?」

キャンディの瞳に涙が滲む。

「そして、その先で再び巡り会った」

ポニー先生はキャンディの手を包んだ。

「あの日の別れが正しかったのか、それとも違う道があったのか、今となっては誰にもわかりません」

「……」

「けれど、その別れが無意味だったとは、私には思えないのです」

キャンディの肩が震える。

「あなたも、テリュースさんも、その時間を生きた」

ポニー先生は静かに微笑んだ。

「そして今、再び同じ場所へ辿り着いたのでしょう?」

ポニー先生の優しい声が静かに響いている。

キャンディは少しずつ、自分の呼吸が落ち着いていくのを感じていた。涙を拭いながら、小さく呟く。

「私……スザナさんがどんな気持ちで生きていたのかを考えると……胸が痛いんです……」

ポニー先生は黙って頷いた。

「私は生きていて……テリィと再会して……結婚もすることに……。そして幸せだと思っている……」

その告白には、罪悪感と、どうしようもない本音が混じっていた。

「でも、スザナさんは……」

そこで言葉が詰まる。キャンディは両手で顔を覆った。

「私、決してスザナさんがいなくなればいいなんて思ったこと、一度もないんです……!本当に……本当に、彼女には幸せになってほしかった……!」

ポニー先生は、その肩をそっと抱き寄せた。

「わかっていますよ」

その一言に、キャンディの涙がまた溢れる。

「あなたは、そんなことを願う子ではありませんもの」

優しく背を撫でる手。それは、幼い頃、熱を出した夜にしてくれたのと同じ手だった。

「でも……人は時に、自分でも気づかない小さな希望を胸の奥へしまってしまうことがあります」

「小さな希望……?」

ポニー先生は静かに頷く。

「“もしかしたら”という願いです」

その言葉に、キャンディの胸が大きく揺れた。

図星だった。どんなに諦めようとしても。どんなに忘れようとしても。心のどこかに、消えなかった。“いつか”という、小さな灯火が。

「それは罪なのでしょうか……」

消え入りそうな声。ポニー先生は、ゆっくりと首を横に振る。

「いいえ」

その答えは、あまりにも穏やかだった。

「人を愛することは、罪ではありません」

キャンディの瞳から、新しい涙が静かに零れた。

「神様は、あなたの心をすべてご存知です」

礼拝堂の中で、蝋燭の火がふわりと揺れる。まるで、その言葉に応えるように。

「だから、過去ばかり見つめていてはいけません」

ポニー先生は、キャンディの肩を優しく抱きながら続けた。

「後ろのものを忘れ、ひたむきに前のものへ向かって進みなさい――そういう言葉も聖書にはあるのですよ」

キャンディは涙に濡れたまま、その言葉を静かに聞いていた。まるで、凍えていた心へ、少しずつ灯がともっていくようだった。


礼拝堂の中は、深い静けさに包まれていた。揺れる蝋燭の火が、聖母マリア像の横顔を淡く照らしている。

その光を見つめながら、キャンディはポニー先生の言葉を胸の中で何度も繰り返していた。

――人を愛することは、罪ではありません。

その一言が、凍りついていた心を少しずつ溶かしていく。けれど同時に、長い年月抱えてきた苦しみもまた、静かに浮かび上がっていた。

「もし、スザナさんが生きていたら……私はきっと、テリィとこうして再会していたかどうか……」

涙が静かに頬を伝う。

「だから……私が今、幸せだと思ってしまうことがいけないことのように感じるんです……」

礼拝堂の古い窓が、風に小さく鳴った。ポニー先生はゆっくりとキャンディの肩を撫でる。

「キャンディ」

その呼びかけは、幼い頃から何度も聞いてきた声だった。転んだときも、泣いたときも、どうしていいかわからなくなった夜も。いつだって、この声が自分を包んでくれた。

「あなたは今、過去の悲しみを、自分ひとりで背負おうとしているのですね」

キャンディは答えられなかった。図星だったからだ。スザナの苦しみも、テリィの苦悩も、自分の決断も。全部、自分の胸へ抱え込もうとしていた。

「でもね、キャンディ。人は、過去だけを見つめて生きていくことはできません」

「……」

「過去は大切です。忘れてはいけないこともあります。けれど、人が向かう先は“前”なのですよ」

キャンディは涙に濡れた瞳でポニー先生を見つめた。

「前……」

ポニー先生は微笑む。

「私たちの目が前についているのは、前を向いて歩いていくためです」

その言葉は、まるで礼拝堂の暗闇へ差し込む朝の光のようだった。

「もちろん、振り返ることもあるでしょう。後悔することも、悲しむこともあります。ですが、後ろばかり見つめていては、新しい時間を見失ってしまいます」

キャンディは息を呑んだ。新しい時間。その言葉が、胸の奥へ静かに落ちていく。

「神様は、毎日、新しい時間を与えてくださっています。過去がどんなに苦しくても、どんなに涙に満ちていても……」

キャンディの肩を抱く手に、少しだけ力がこもる。

「新しい朝は、必ずやって来るのです」

礼拝堂の中は静かだった。けれど、キャンディの胸の中では、何かが少しずつほどけ始めていた。

「後ろのものを忘れ、ひたむきに前のものに向かって進みなさい」

ポニー先生は、聖書の言葉を静かに口にした。

「それは、“過去を捨てなさい”という意味ではありません。過去を抱えたままでも、人は前へ進んでいいのです」

その言葉に、キャンディの目から新しい涙が零れた。