夏の陽射しが、畑一面に降り注いでいた。
背の高いとうもろこしが風に揺れ、ざわざわと乾いた葉音を立てている。
結婚式の披露宴で振る舞うため、村では収穫が急ピッチで進められていた。
けれど人手が足りず、畑のあちこちから忙しない声が上がっている。
「人手がもう少しあればな……」
その言葉を聞いて、テリィは自然と顔を上げた。
「足りないなら、手伝いますよ」
あまりにもさらりと言われたその一言に、その場にいた男たちは思わず顔を見合わせた。
大都会ニューヨークから来た男。そんな彼が、とうもろこしの収穫を?
「やったこと、あるのか?」
半ばからかうような声が飛ぶ。
「ないですよ」
テリィは迷いなく答えた。
その返事に、男たちは内心ほくそ笑む。これなら勝てる、そう誰もが思った。
都会の男に畑仕事ができるはずがない。
どうせすぐに音を上げる。そんな確信にも似た空気が、そこにはあった。
「テリィ、無理しなくていいのよ?」
少し離れたところで、キャンディが心配そうに声をかける。
「大丈夫だよ」
テリィは軽く肩をすくめた。
「きみがやってることだ。できない理由はない」
その言葉に、キャンディは思わず笑みをこぼす。
彼らしい言い方だと思った。
最初のうちは、やはりぎこちなかった。
とうもろこしの茎を掴む位置が定まらず、実がうまく外れない。
「違う違う、もっと根元を持って、こうひねるんだ」
近くにいた男が見本を見せる。
テリィは一度だけそれを見て、小さく頷いた。
「……なるほど」
そして、次の瞬間。ぽきっ、と乾いた音が響く。見事に一本、とうもろこしが外れた。
「できたな」
それだけ言うと、すぐに次へと手を伸ばす。
ぽきっ、ぽきっ、とリズムよく音が続いていく。
男たちは、次第に手を止めていた。
最初のぎこちなさは、もうどこにもない。
動きは無駄がなく、一定の速さを保ち、気づけば誰よりも多く収穫している。
(……おい、ちょっと待て)
(覚えるの、早すぎないか?)
(初めてって言ってたよな……?)
ざわめきが広がる中でも、テリィは気にする様子もなく手を動かし続けていた。
ひとつのことに集中したときの、あの表情。舞台の上で見せるそれと、どこか重なるものがあることは、村の男たちは知らない。
「テリィ!」
キャンディが駆け寄る。
「すごいわ、もうこんなに……!」
彼の足元には、収穫されたとうもろこしがいくつも積み上がっていた。
「慣れただけだよ」
テリィはさらりと言う。
「慣れただけでそんなにできるの?」
「たぶんな」
あまりにも自然な返答に、キャンディは思わず笑ってしまう。
やがてテリィは手を止め、軽く息をついた。
「……これで、いいか?」
振り返った先にいる男たちは、言葉を失っていた。
誰よりも多く、誰よりも整然と積まれた収穫。
それがすべてを物語っていた。男のひとりが苦笑しながら頭をかいた。
「参ったな」
別の男も肩をすくめる。
「勝てると思ったんだがな」
「何にだよ」
「なんとなく、だ」
夏の畑に、笑い声が広がる。
都会の男も、村の男たちも、立場など関係なく同じ汗を流している。
その中心で、キャンディが楽しそうに笑っていた。
その光景はきっと、この日の思い出として、誰の心にも残っていく。