午後のポニーの家は、めずらしいほど静かだった。

子どもたちは昼食のあと、ぐっすりと眠りについている。廊下には足音ひとつなく、窓から差し込むやわらかな光だけが、ゆっくりと時間の流れを教えていた。

キャンディは応接室の片付けをしていた。

使われたままになっていたカップを下げ、テーブルを拭き、整えられた空間にほっと息をつく。

そのとき、テーブルの端に置かれていた新聞が目に入った。何気なく、手に取り、パラリ、とページをめくる。

その瞬間、視線が止まった。

そこにあったのは、見覚えのある名前と――写真。

《若き名優テリュース・グレアム

      支え続ける女性との“真剣愛”》

一瞬、呼吸が浅くなる。

先日、診療所で見た記事と、ほとんど同じだった。

同じ見出し。同じような写真。同じように語られる、物語。

事故。支え続ける彼、寄り添う女性。

少しだけ言葉を変えながら、けれど核心は変わらない。

わかっていたはずだった。あの記事が、一度きりで終わるものじゃないことくらい。

人気が出れば、繰り返される。少しずつ形を変えながら、広がっていく。そういうものだと、頭では理解していた。

けれど――

(……だめ)

胸の奥が、きしむように痛む。

診療所で読んだときとは、違った。あのときは、白衣を着ていて、仕事の途中だった。

次にやるべきことが、すぐそこにあり、平常心を保てた。

(これで、いいのよね……)

そう思う。そう思いたい。

彼は約束を守り、誰かを支えている。その姿は、彼らしい。

(……ええ、これでいいの)

心の中で、繰り返す。

けれど、じわりと、痛みが広がる。

(私……まだ……)

言葉にならない想いが、胸の奥で揺れる。忘れられていない。そんなことは、わかっていた。


しばらくその場に立ち尽くしたあと、キャンディはゆっくりと新聞を元の場所に戻した。

深く息を吸って、吐く。

けれど、胸の奥の重さは消えない。

ポニー先生やレイン先生が、きっとそろそろ台所に立つ時間だ。

いつものように、手伝いに行けばいい。

いつものように、笑っていればいい。

でも足は、自室へと動いた。


自室の扉を閉めた瞬間、外の音が遠くなる。

ベッドの端に腰を下ろす。

手は、膝の上でぎゅっと握られていた。

「……大丈夫」

小さく呟く。けれど、その声は少しだけ震えていた。

窓の外には、変わらない冬の景色。

遠いニューヨークの光は、ここからは見えない。

それでも――

(忘れられるわけ、ないじゃない)

胸の奥にある想いだけが、確かにそこにあった。