午後のニューヨークは、まだ明るい光に満ちていた。
キャンディは少し得意げな顔でドアを開けた。
腕には紙袋がひとつ。
「テリィ、ただいま!」
リビングで台本を読んでいたテリィが顔を上げる。
「おかえり。早かったな」
「ええ。ちゃんと買ってきたわよ」
キャンディは紙袋を掲げてみせた。
その顔には小さな達成感が浮かんでいる。
「何を?」
「あなたの稽古着。タンクトップとTシャツ。そろそろ買い替えたいと言ってたでしょ?」
「あ、そっか」
そう言って袋から取り出した。
白いタンクトップと、シンプルなTシャツ。
「サイズ、間違いないと思うんだけど」
テリィはそれを受け取り、少し広げてみる。
「……ほう」
一言だけ呟くと、すっと立ち上がった。
「ちょうどいい。試してみるか」
その言葉と同時に、彼は今着ていたシャツに手をかけた。次の瞬間。するり、と脱ぐ。
キャンディは一瞬、思考が止まった。
彼の体は、舞台俳優らしく、肩の線はしなやかで、胸や腕の筋肉は無駄なく引き締まっている。舞台で剣を振るう男の体だった。
見慣れていないわけではない。
けれど――
突然、目の前で脱がれると、話は別だった。
キャンディの顔がみるみる赤くなる。
「どうした?」
テリィは何食わぬ顔でタンクトップを広げている。
「い、いきなり脱がないで!」
「ん?なんで?」
「なんでって……」
言葉が続かない。
テリィは構わずタンクトップを着る。
だが、着た瞬間、少しだけ肩を動かした。
「これは……大きいな」
「え?」
キャンディは慌てて近づく。
確かに少し余裕がある。
体にぴったりというより、わずかにゆとりがある感じだった。
「サイズ、合ってる?」
「えっ……合ってるはず……」
キャンディは紙袋を見直す。そして小さく肩を落とした。
「……間違えちゃったみたい」
テリィは肩をすくめる。
「まあ、着られないわけじゃないさ」
Tシャツも試してみる。やはり少しだけ大きい。
「ま、部屋着にはちょうどいいか」
そう言って、のんびりした顔でソファに腰を下ろした。
だが、キャンディはまだ落ち着かない。
さっきの光景が頭から離れない。
テリィはその様子に気づいていた。
彼女の頬はまだ赤い。テリィはゆっくり近づく。
そして耳元で低く囁いた。
「ベッドでは見えてるくせに」
「……!」
キャンディは飛び上がるように離れた。
「もう!」
テリィは声を上げて笑う。
「何を今さら」
「からかわないで!」
キャンディは腕を組む。そしてきっぱり言った。
「もう!しばらくキス禁止!」
テリィが眉を上げる。
「ほう」
「そうよ」
「いつまで?」
「……しばらく」
その曖昧さに、彼はさらに楽しそうな顔になる。
「無理だな」
「どうして?」
テリィはソファにもたれ、腕を組んだ。
「きみが先に破ると思うから」
「破らないわ」
「賭けてもいいぜ」
結局――
その夜、キス禁止の約束がどれくらい守られたのかは、本人たちだけが知っている。