ポニーの家での結婚式を終え、インディアナポリスで一泊し、長い旅を経てニューヨークへ戻った。
旅の疲れと、現実に戻った安堵と、そしてようやく二人きりになれたという静かな熱が、ゆっくりと重なっていった。
その翌日の夜。
窓の外には、遠くに滲む街の灯り。
旅の余韻をまだ少し残した部屋の中は、どこか柔らかい空気に包まれていた。
長い時間を越えて、遠回りをして、やっと辿り着いた距離。
求め合うというより、確かめ合うような、熱のある抱擁。
触れるたびに、「ここにいる」という実感が深くなる。
やがて、息が落ち着き、静けさが戻る。
乱れたシーツの上に、脱ぎ散らかされた衣服が無造作に残っていた。
その中に、テリィの下着と、自分のものが混じっている。
ごく普通の、下着。
けれどそれが、妙に生々しく見えてしまう。
キャンディは、はっとする。
急に現実味を帯びたその光景に、頬が一気に熱くなる。
そっと身体を起こし、慌ててそれらを手繰り寄せる。
見えないように。目に入らないように。
まるで何か悪いことでもしたかのように、シーツの下へと押し込もうとしていた。
その動きを、テリィが気づく。
「何をしてるんだ」
低い声。キャンディの肩がぴくりと震える。
「な、なんでもないわ」
「そうか?」
彼はゆっくりと上体を起こし、彼女の手元を見る。
隠そうとしている布地が、かえって目立つ。
「あの……」
言葉にならない。
ポニーの家には、大人の男性の下着など存在しなかった。
看護婦として男性患者もいるが、男女の下着がこんなふうに混ざり合って転がっている光景は、見ることはなかった。
ベッドの上では見えているはずなのに、こうして明るい部屋の中で目に入ると、なぜか別物のように感じる。
テリィは口元に笑みを浮かべる。
キャンディの耳まで赤いのを見て、さらに楽しそうに目を細める。
テリィは彼女の手からそっとそれを取り上げ、わざとらしく持ち上げる。
「そんなに隠すほどのものか?」
「やめて」
言葉が続かない。
「こういうの、慣れてる人には私の気持ちはわからないのよ!」
からかわれた悔しさが先に立って、キャンディは思わず言い返す。
その言葉に、テリィの表情がふっと変わった。
「俺は慣れてないよ」
真顔だった。一瞬、部屋の空気が止まる。
「仕事では女優のドレス姿は見慣れてるが」
少しだけ肩をすくめる。
「下着に興味はない」
その言い方が妙に真面目で、キャンディはかえって戸惑う。
変なことを言ってしまった、と、少しだけ困った顔になる。
「……そういう意味じゃなくて」
言い訳のように言いかけると、テリィの口元に、いたずらっぽい笑みが戻る。
「まあ、きみが留守のときにゆっくり見るから」
「なっ……!」
顔が一気に熱くなる。
「テリィのエッチ〜!」
思わず彼の胸を軽く押す。
テリィは押された勢いのまま、くすりと笑った。
「健康な男子なんだ。好きな子のそういうの、目に入れば見たいのは当然だろ」
「もう……!」
ますます赤くなるキャンディ。耳まで染まっている。
それを見て、さらにテリィは楽しそうに目を細める。
「25でも、きみはまだまだ少女だな」
その言葉はからかい半分、愛しさ半分。
キャンディは唇を尖らせながらも、視線を逸らせない。
「そういうピュアなところ、いいと思う」
「いいと思う?って……もう、からかわないで……」
「いや、好きだってことだよ」
低く、やわらかく返す。
テリィは笑いながら、ゆっくりとそれを脇へ放り、代わりに彼女の手首を掴む。
力は強くない。けれど逃がさない。
彼はゆっくりと彼女を引き寄せ、唇が触れさせる。
さきほどよりも深く、確かめるように。
キャンディの指が、今度は隠すためではなく、彼の肩を掴む。
窓の外の灯りは変わらず瞬いている。
下着のことはもうどうでもよくなる。
ただ、触れ合う温度だけが確かだった。
もう一度、熱が戻る。シーツが再び乱れる。
ニューヨークの夜は深く、
部屋の中には、まだ甘い気配が残っていた。