午前中の陽射しが、ペントハウスのリビングにやわらかく差し込んでいた。
窓を開け放つと、少し高い場所特有の風が、カーテンを大きく揺らす。
「今日はよく乾きそうだわ」
キャンディはそう言って、洗い上がったシーツを抱えた。
まだ湿った布の重み。
石鹸の匂い。
テリィは台本を片手にソファに座っていたが、
その様子をちらりと見て立ち上がる。
「手伝おうか」
「いいの?」
「重そうだしな」
キャンディは少しだけ笑う。
「そうね、ありがとう」
ふたりでバルコニーへ出る。
遠くに摩天楼。その下を小さく動く自動車。
高い場所なのに、生活の匂いがする。
キャンディがシーツを広げる。
風がそれをふわりと持ち上げる。
「あっ」
シーツが二人の顔を覆う。
一瞬、白い布の中。
光が透ける。外の音がやわらぐ。
目の前に、テリィの顔。
「……閉じ込められた、ということか」
低い声。
キャンディはくすっと笑う。
「そうみたいね。閉じ込めた犯人は風、ね」
シーツ越しに、彼の手が伸びる。
キャンディの頬に触れる。
「石鹸の匂いがする」
「当たり前でしょう、洗ったんだから」
「きみの匂いもする」
さらりと言う。
キャンディは一瞬言葉を失い、わずかに頬を赤らめる。
「……洗濯物の話をしてるのよ」
「俺は違うけど?」
シーツが風に煽られ、再び外の景色が戻る。
ふたりは少し照れたまま、シーツをきちんと干し直す。
洗濯ばさみを留める指先が、何度か触れ合う。
そのたびに、どちらともなく目をそらす。
「風が強いな」
テリィが言う。
「飛ばされないようにしないとね」
キャンディは真剣な顔で留め直す。
その横顔を、テリィはしばらく見ている。
舞台上では見せない、ただの“夫の顔”。
「どうしたの?」
視線に気づいて聞く。
「いや」
テリィは軽く肩をすくめる。
「平和だなと思って」
キャンディは少しだけ微笑む。
「うん。平和ね」
遠くで船の汽笛が鳴る。
洗濯物が風に揺れる。
白い布が、光をはらんで膨らむ。
ふたりは並んで、それを眺める。
何も特別なことは起きているわけではない。
ただ、風と、石鹸の匂いと、隣にいる人の体温。
キャンディはふと、テリィの腕に触れる。
テリィも少しだけ近づき、彼女の額に軽くキスを落とす。
風がまた強く吹き、シーツが大きく揺れる。
その白い影の下で、ふたりは小さく笑った。
ニューヨークの空の下、
洗濯物と一緒に揺れる、穏やかな午後だった。