研修の最終日。

朝から診療所は慌ただしく、村人たちが次々とやって来ていた。

キャンディはいつものようにカルテを手に診療所内を駆け回る。

心のどこかで「ヘイル先生の研修最後の日」と思いながらも、与えられた仕事を全力でこなした。


夕方、最後の処置を終えたとき、廊下の窓から差し込む夕陽が彼女を照らした。

オレンジ色に包まれた横顔は、疲れているはずなのに清々しく、どこか輝いていた。


「キャンディ」

声をかけたのはクインだった。

白衣の袖をまくり上げ、少し緊張した面持ちで立っていた。

「話があるんだ。少し、いいかな」

診療所は夕暮れの静かさに包まれていた。診療所の前のベンチには先ほどまで井戸端会議が開催されていたが今は人影がない。

キャンディは、クインの隣に腰を下ろした。

「改めて、ありがとう。ここで研修できて、本当に学ぶことが多かった」

クインは少しうつむき、握りしめた拳を膝の上に置いた。

「……最初に会ったときから、どこかで思っていたんだ。君の笑顔は、誰よりも人を安心させる。

患者に寄り添う姿を見て、心から尊敬した」

キャンディは照れくさそうに笑った。

「そんな、大げさよ。私はただ必死にやっていただけ」


クインは深呼吸し、真剣な眼差しを向けた。

「違う。必死さだけじゃ、人の心は救えない。……キャンディ、やっぱり俺は、君を……好きな気持ちは変えられない」

その言葉に、キャンディははっと目を見開いた。

夕陽に照らされた頬が赤く染まり、けれどすぐに伏し目がちになる

しばらく沈黙が流れた。

やがてキャンディは、ゆっくりと顔を上げた。

「……ありがとう、ヘイル先生。私なんかに、そんな風に言ってくれて。でも……」

彼女の声は震えていた。

「私はやっぱり忘れられないひとがいる限り、始められない」

クインの瞳が揺れる。

キャンディは続けた。

「たとえ離れていても、心から消えることはない。どんなに時間が経っても、ずっと……」

彼女の瞳はまっすぐで、曇りがなかった。

それが彼にとって何よりも残酷で、同時に美しくもあった。

「そうか……。じゃあ俺の想いはここまでと言うことなんだな」

「ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。君が誰かを一途に想っていること――それはとても尊いと思う」

立ち上がり、彼は深く息を吸った。

「キャンディ、君に出会えたことは俺にとって大切な宝物だ。この想いが報われなくても、君と過ごした時間が俺を強くしてくれた」

キャンディは胸が締めつけられる思いでその言葉を聞いていた。

「……ありがとう。私も、ヘイル先生と一緒に仕事ができてよかった。きっと忘れない」

二人はしばし視線を交わし、やがて静かに別れを告げた。

キャンディの心は痛んだ。

誰かを傷つけてしまったこと、そして自分がまだ「忘れられない人」に縛られていること――。

けれど同時に、胸の奥で確かに感じていた。

その人を想い続ける限り、どんな孤独にも耐えられる、と。