それが公になったのは、年が明けて半月過ぎた頃だった。

テリュース・グレアムの結婚相手がアードレー家総長の養女である……その事実自体よりも、世間の興味は、別の方向へと過熱していった。

養父と養女。不自然な年齢差。

事実を歪め、想像を膨らませ、下世話な言葉で飾り立てた記事が、あたかも“真実”であるかのように紙面を埋めていった。

テリィは、その記事を見るたびに、怒りよりも先に湧くのは、自分への失望だった。

俺は、彼女を守ることができない。

名も、立場も、舞台で築いてきた評価もある。

それでも、この件に関しては、彼の力は及ばなかった。

火を消したのは、アルバートだった。

アードレー家総長としての権限。

長年にわたり築き上げてきた信用と影響力。

それらを、迷いなく行使し、報道は一斉に鎮まった。

まるで、最初から存在しなかったかのように。

——それが、余計に悔しかった。

テリィは、アルバートと向き合った夜のことを、何度も思い返していた。

「……俺は、何もできませんでした」

そう口にしたとき、アルバートは、静かに首を横に振った。

「僕は親として、当然のことをしただけだよ」

穏やかな声だった。

「君は、夫として守らなければならないときがあるはずだ。僕とは役割が違う」

その言葉は、テリィの胸に、深く、重く残った。

報道が鎮まっても、好奇の視線が消えたわけではなかった。

主演として出席しなければならない夜会。

格式ばった会場に、紛れ込む記者。

興味本位で近づいてくる者。

その場でテリィはアルバートの言葉のように、はっきりと“夫”として、無遠慮な言葉には毅然と応じた。


完全に冷めたある日の夜。ペントハウスの寝室。

灯りは落とされ、街の光が、カーテン越しに淡く差し込んでいる。

テリィは、ベッドに腰を下ろしたまま、隣にいるキャンディを見つめていた。

長い沈黙のあと、ふいに、口を開いた。

「……なあ」

低い声。キャンディが、首を傾げる。

「なあに?」

テリィは、少しだけ視線を逸らし、それから、覚悟を決めたように言った。

「……俺と、結婚して……よかったか」

一瞬、時間が止まったように感じた。

キャンディは目を瞬かせ、明らかに戸惑った表情を浮かべる。

「なに言ってるの?」

その声には、驚きと、少しの不安が混じっていた。

「急に……どうして?」

テリィは、答えなかった。答えられなかった。

キャンディは、しばらく彼を見つめていたが、やがて、小さく息を吐いた。

「……良かったに、決まってるでしょう」

そう言ってから、少しだけ、間を置く。

そして、まるで初めて話すかのように、言葉を選びながら、続けた。

「私ね……あなたと別れてから、ずっと……」

声が、わずかに揺れる。

「忘れようとしたわ。何度も、何度も……。でも、忘れようとすればするほど、忘れられなくて……

会いたくて、会いたくて……どうしようもない夜が、どれだけあったか……」

キャンディは、視線を落とした。

「だから……あなたと、こうして一緒にいられる今が……」

ゆっくりと、顔を上げる。

「良くないなんて……思うわけないでしょう」

その言葉は、静かで、けれど、決定的だった。

テリィの胸に、一気に、感情が押し寄せる。

愛しさ。安堵。悔しさ。誇り。

すべてが混ざり合い、彼は、言葉を失った。

少しの間合いのあと、テリィはキャンディを引き寄せる。迷いのない腕。

彼女の額が、胸に触れる。

「……キャンディ」

名を呼ぶ声が、掠れる。

キャンディは、何も言わず、彼の背に腕を回した。ただ、抱きしめあう。

呼吸が揃う。心臓の音が、近い。

「愛してる、こんなにも」

キャンディは、その胸に顔を埋めたまま、囁いた。

この夜、ふたりはただ、互いの存在を確かめ合うように、静かに抱き合い続けた。

それで、十分だった。