午後の光が、ステンドグラスを透かして床に七色の模様を落としていた。
修繕を終えた教会の中は、木の香りと新しい塗料の匂いがまだわずかに残っている。
古い扉には新しい蝶番、窓のガラスは磨かれ、開け放つと風がまっすぐに通り抜けた。
「きれいになったわね」
キャンディは柔らかく微笑み、指先でベンチのほこりを拭った。
「最初に来たときは、光がこんなに入らなかったのに」
「まるで息を吹き返したみたいだな」
テリィが梁を見上げる。
「きみが一番働いたんじゃないか?」
「いいえ、あなたのほうこそ。慣れないことばかりで疲れてない?」
キャンディがふと祭壇の方を見つめた。
「ねえ、ちょっと……歩いてみてもいい?」
「歩く?」
「ほら、ここ。バージンロード」
テリィは眉を上げた。
「当日、きみはアルバートさんと歩くだろ?」
「ええ。でも、今日は……あなたと歩いてみたいの」
テリィは少し目を細めた。
「本番では、アルバートさんと歩くのは“家族としての最後の時間”でしょ。でも、あなたと歩くのは……これから始まる時間の練習、っていうか」
「なるほどな」
「おかしい?」
「いや」
テリィは小さく首を振った。
「きみらしいと思った」
ふたりは並んで入口へ立った。
扉の向こうから午後の風が流れ込み、白いカーテンをやさしく揺らしている。
キャンディが一歩を踏み出す。
テリィはその歩幅に合わせて隣を歩いた。
足音が静かに響くたび、窓の光が床を渡り、ふたりの影を追いかけた。
「ねえ、意外と難しいわね」
「どこが?」
「あなたの歩幅、大きいと思うとつい早くなっちゃう」
「なら、俺が合わせる」
テリィは笑い、少し歩幅を狭めた。
「人生も同じだ。どちらか片方が先に行きすぎると、もう片方は疲れる」
「テリィ……」
やがて、ふたりは祭壇の前で立ち止まった。
ステンドグラスの光が二人の顔を優しく照らす。
鐘の音が、遠くで風に揺れた。
ふたりは顔を見合わせ、静かに笑った。
「いい音ね」
「風が通るからだ」
「風の通る教会……名前、つけたいくらいね」
「いい名前だな」
風が白いカーテンを押し広げ、外の光がふたりを包んだ。
その瞬間、テリィが小さく息を吐き、キャンディの手を取る。
「これから先、何があっても……歩幅を合わせていこう」
「ええ」
「きみが泣く日も、笑う日も、同じ速さで歩けるように」
ふたりの影が、重なりながらゆっくりと伸びていく。
まるで風の流れに溶け込むように、静かでやさしい時間だった。