午後の光が広間の大窓から差し込み、磨き込まれた床に淡い輝きを落としていた。
その光はやわらかいはずなのに、集った人々の顔を冷たく照らしていた。
重厚な椅子に腰かける公爵の隣には、正妻が座っている。
彼女の膝の傍らには、乳母が赤子を抱いて立っていた。
赤子はまだ言葉も知らず、ただ小さな手を空に伸ばしているだけだったが、その存在が広間の空気を変えていた。
「この家の跡取りは、正式な妻の子であるべきです」
継母の声は張りを帯びて響き渡った。
きっちりと結い上げた金の髪、宝石のように冷たい眼差し。
彼女は迷いなく、公爵を見据えていた。
「テリュースは——」父が言いかけた。
だがすぐに、継母が言葉を遮る。
「婚外の子を跡取りとするなど、我が一族に泥を塗ることになりますわ。父母も同じ意見です」
彼女の両親である老紳士と夫人が、沈黙のままに重々しくうなずいた。
否定を許さぬ重みが、広間全体にのしかかる。
公爵はグラスを持ち上げ、琥珀色の液体を口に運んだ。
長い沈黙の末、視線を伏せる。
諦めとも、疲労ともつかぬその眼差しが、答えを示していた。
その夜、幼いテリィは父に呼ばれ、書斎の前に立っていた。
扉を開けると、ランプの灯りが机上の書類を照らし出し、父の背中を淡く浮かび上がらせている。
「おまえが悪いのではない」
振り返った父の声は低く、掠れていた。
「ただ……この家でおまえを守りきることはできない」
八歳の少年には、言葉の意味を完全に理解することはできなかった。
けれど「守りきれない」という響きが、胸の奥を冷たく締めつけた。
父はそれ以上言葉を重ねなかった。
愛情がそこにあったのか、あるいは諦めだったのか。
幼い心には、判別できるはずもなかった。
やがて食卓は、彼にとって試練の場となった。
長いテーブルの上に並ぶ燭台の炎は、食器や銀器をきらめかせ、香ばしい料理の匂いが漂っていた。
だがテリィには、それが息苦しさを増すだけの象徴に思えた。
「テリュース、手首をもっと立てなさい。……そう、違う、角度が浅いのです」
継母の声は冷たく響き、広間に緊張を走らせた。
少年は小さな手で必死に直そうとする。
けれど、まだ未熟な動きはぎこちなく、ナイフの刃が皿に触れて軽く音を立てた。
「まあ! なんてはしたない音!」
継母の口元に勝ち誇った笑みが浮かぶ。
「まるで下賤の出の子どもがすることですわね」
言葉の矢が突き刺さった。
隣に座る父は顔をしかめるが、口を開かなかった。
継母の両親はただ冷ややかに目を細め、見下ろすように少年を観察していた。
テリィは唇を強く噛み、熱いものが胸にこみあげるのを堪えた。
(音を立てるなと言われたのに……どうして、何もしていなくても叱られるんだ)
その小さな心は問いかけるが、答えはどこにもなかった。
「まあ……情けないわね。これでは客人の前に出せませんわ」
継母のため息には、あからさまな侮蔑が含まれていた。
父はグラスの底を見つめたまま動かない。
その沈黙が、何よりも重くのしかかった。
食後、部屋に戻されたテリィは、机の上に置かれた銀のナイフとフォークを取り上げた。
小さな手で何度も持ち替え、角度を確かめる。
皿に触れぬようにと練習を繰り返した。
だが、頭の中に響くのは継母の言葉ばかりだった。
「下賤の女の血を継ぐ子」
「礼儀を知らぬ恥さらし」
どれほど練習しても、その声は消えなかった。
窓から射し込む月明かりの中で、少年はひとりナイフを握りしめる。
震える指先。
その影は幼くか細い。
それでも彼は泣かなかった。
ただ沈黙の中で耐え、孤独に自分を支える術を覚えていった。
——あまりにも早すぎる年齢で。