窓の外は茜から群青へと変わり、リビングに柔らかなランプの灯りがともっていた。
オリヴァーはテーブルで色鉛筆を並べながら汽車の絵を描いている。
赤鉛筆が丸くなっているのに気づき、きちんと削ってから描き直す几帳面さは、誰が見ても父親譲りだった。
オスカーはソファで積み木を高く積んでは倒して笑い声をあげている。
散らかった靴下は片方だけ、どこかへ飛んでいったまま。
「今日は孤児院でね、新しい若い医師が紙芝居をしてくれたの。子どもたちが夢中で……本当に楽しそうだったわ」
外套を脱ぎながらキャンディが話すと、オリヴァーの瞳がきらきらした。
「いいな、ぼくも見たかった」
その横で、テリィはジャケットを椅子に掛け、短く答えた。
「……へえ」
低い声には、かすかな棘。
キャンディは一瞬首を傾げた。
「なに? ただの報告よ」
「……妙に楽しそうだな」
「え?」
その空気に、オリヴァーは手を止め、ちらりと両親を見た。
父の眉間の皺と、母の少し強張った表情。
何かが噛み合っていないのを感じ取ったが、何も言わずに鉛筆を握り直す。
オスカーだけが、積み木を倒して笑っている。
幼い笑い声が、ぴんと張り詰めた空気を少し和らげていた。
◇
子どもたちが寝静まった後。
キャンディはまだ拗ねたように腕を組んでいた。
「あなたがそんなふうに思うなんて、心外だわ」
テリィは低く言う。
「悪かった」
素直な謝罪に、キャンディは意外そうに目を瞬かせる。
「ただ……」
彼は視線を落としたまま続けた。
「おまえが他の誰かの話をあんなに楽しそうにするのは、面白くない」
不器用な言葉。
それでもキャンディはふっと息をつき、近づいた。
「……ばかね」
「……」
「私が一番大切に思ってるのは、ずっとあなただけだから」
テリィはようやく彼女を見つめ、眉間の皺をほどいた。
「……わかってる」
それでも声の奥にはかすかな不安が残っていた。
キャンディは彼の腕に手を添え、柔らかく笑った。
「嫉妬するあなたを見るのも、たまにはいいわね」
「そうか?」
「うん。…そんなあなたも好き」
その一言に、テリィは苦笑を浮かべ、彼女を抱き寄せた。
唇が触れると、棘はすぐに溶けて、温かさに変わっていった。
◇
朝食のテーブル。
オリヴァーはきちんとパンを皿に並べ、ミルクを慎重に注いでいる。
一方オスカーは、バターを塗りすぎてパンをぼろぼろにしていた。
「お母さん、昨日の紙芝居ってどんなお話だったの?」
オリヴァーが明るく話す。
キャンディは笑って答え、テリィも黙って耳を傾ける。
「パン、落としたー!」
オスカーがテーブルの下から顔を出すと、テリィとキャンディの笑い声が重なった。
その光景はいつもの賑やかであたたかい家族の団欒だった。