窓の外は茜から群青へと変わり、リビングに柔らかなランプの灯りがともっていた。

オリヴァーはテーブルで色鉛筆を並べながら汽車の絵を描いている。

赤鉛筆が丸くなっているのに気づき、きちんと削ってから描き直す几帳面さは、誰が見ても父親譲りだった。

オスカーはソファで積み木を高く積んでは倒して笑い声をあげている。

散らかった靴下は片方だけ、どこかへ飛んでいったまま。

「今日は孤児院でね、新しい若い医師が紙芝居をしてくれたの。子どもたちが夢中で……本当に楽しそうだったわ」

外套を脱ぎながらキャンディが話すと、オリヴァーの瞳がきらきらした。

「いいな、ぼくも見たかった」

その横で、テリィはジャケットを椅子に掛け、短く答えた。

「……へえ」

低い声には、かすかな棘。

キャンディは一瞬首を傾げた。

「なに? ただの報告よ」

「……妙に楽しそうだな」

「え?」

その空気に、オリヴァーは手を止め、ちらりと両親を見た。

父の眉間の皺と、母の少し強張った表情。

何かが噛み合っていないのを感じ取ったが、何も言わずに鉛筆を握り直す。

オスカーだけが、積み木を倒して笑っている。

幼い笑い声が、ぴんと張り詰めた空気を少し和らげていた。


子どもたちが寝静まった後。

キャンディはまだ拗ねたように腕を組んでいた。

「あなたがそんなふうに思うなんて、心外だわ」

テリィは低く言う。

「悪かった」

素直な謝罪に、キャンディは意外そうに目を瞬かせる。

「ただ……」

彼は視線を落としたまま続けた。

「おまえが他の誰かの話をあんなに楽しそうにするのは、面白くない」

不器用な言葉。

それでもキャンディはふっと息をつき、近づいた。

「……ばかね」

「……」

「私が一番大切に思ってるのは、ずっとあなただけだから」

テリィはようやく彼女を見つめ、眉間の皺をほどいた。

「……わかってる」

それでも声の奥にはかすかな不安が残っていた。

キャンディは彼の腕に手を添え、柔らかく笑った。

「嫉妬するあなたを見るのも、たまにはいいわね」

「そうか?」

「うん。…そんなあなたも好き」

その一言に、テリィは苦笑を浮かべ、彼女を抱き寄せた。

唇が触れると、棘はすぐに溶けて、温かさに変わっていった。



朝食のテーブル。

オリヴァーはきちんとパンを皿に並べ、ミルクを慎重に注いでいる。

一方オスカーは、バターを塗りすぎてパンをぼろぼろにしていた。

「お母さん、昨日の紙芝居ってどんなお話だったの?」

オリヴァーが明るく話す。

キャンディは笑って答え、テリィも黙って耳を傾ける。

「パン、落としたー!」

オスカーがテーブルの下から顔を出すと、テリィとキャンディの笑い声が重なった。

その光景はいつもの賑やかであたたかい家族の団欒だった。