第三劇場の千穐楽は、嵐のような喝采で幕を閉じた。

観客は最後まで立ち上がったまま拍手を送り続け、幕が完全に降りても誰一人として席を立とうとはしなかった。

「これほどの公演は二度とない」そんな思いが劇場全体に充満していた。

その熱を抱いたまま、劇団はブロードウェイの名門ホテルで盛大なパーティーを催した。

大広間にはシャンデリアが燦然と輝き、白いテーブルクロスの上に並ぶ料理はどれも宝石のようだった。

銀の皿にはローストした肉、彩り豊かなサラダ、山のように積まれた菓子。

シャンパンの栓が次々と抜かれ、グラスの中で泡がきらめく。

集まったのは劇団員、スポンサー、批評家、そして文化人たち。

各テーブルではあちこちで祝辞が飛び交い、記者たちは早くも記事の見出しを考えている様子だった。


そのとき、会場の入り口が静かに開き、エティエンヌが姿を現した。

燕尾服に身を包んだ彼は、群衆の中でもひときわ目を引く。

長いキャリアの重みを纏いながらも、歩みはゆるやかで威厳に満ちていた。

人々は自然と道を開け、拍手で彼を迎えた。

エティエンヌは微笑み、軽く会釈を返すと、まっすぐにテリィのもとへ向かった。

テリィもまた、静かにグラスを置き、立ち上がる。

二人は視線を交わし、無言のままグラスを合わせた。

「……今夜の客席の熱を、君も感じただろう。あれはシラノとクリスチャン、二人が揃わなければ生まれなかった熱だ」

「ええ。シラノの言葉がなければ、クリスチャンはただの愚かな若者で終わっていた。でも……あなたがその言葉を託してくれたから、彼は命を宿せた」

エティエンヌは目を細めて笑う。

「君は若いのに、役を“借り物”にしない。台詞が血となり肉となって観客に届いていた。……正直に言おう。初めて君の名を聞いたとき、私は人気先行の俳優だと思っていた。だが、今は違う。君は本物だ」

テリィは少し肩をすくめ、照れを隠すように言った。

「そう思っていただけたなら、これ以上の褒美はありません」

やがて劇団団長が壇上に立ち、グラスを掲げた。

「諸君、今夜は我々の新たな歴史の証だ。ヴァロワ氏を迎え、テリュースと共に作り上げた舞台は、この劇団にとっても誇りとなった。ここに、氏の帰国にあたり最大の敬意を表したい!」

会場が拍手で包まれる。

花束が差し出され、エティエンヌは深く一礼した。

その横で、テリィは彼の姿をじっと見つめていた。

「私は明日、フランスに帰る。……だが、君はいずれ海を渡るだろう。舞台に生きる者として、その時が来るのを私は確信している」

「今はまだ考えたこともありません。ただ、次の舞台に全力を尽くすだけです」

エティエンヌは満足そうに頷き、彼の肩を叩いた。

「その謙虚さと誇りがあれば、どこへ行っても君は輝く。――再び舞台で会える日を楽しみにしている」

パーティーは夜更けまで続いた。

笑い声と乾杯の音、音楽の調べが大広間を満たしていたが。

テリィは窓辺に立ち、街灯の光に照らされたブロードウェイの通りを見下ろしていた。

エティエンヌとの出会いと別れ。

それは一つの幕引きであり、同時にまだ見ぬ未来への序章でもあった。