煌びやかなシャンデリアがきらめくプラザホテルのレストラン。
金糸のように光るクロスの上に、磨き上げられたカトラリーが整然と並んでいる。
キャンディは胸の奥をそわそわさせながら入口を見やった。
――ポニーの家で共に育ち、村の診療所で共に働いた仲間が、こんなところで再会するなんて。
やがて現れたのは、少し緊張した面持ちで立つ女性。髪をすっきりまとめ、淡い青のワンピースに身を包んでいる。
その姿を見た瞬間、キャンディの目がぱっと見開かれた。
「……エミリー!」
「キャンディ!」
二人は駆け寄り、抱き合った。
懐かしい温もりが胸に広がり、目尻にじわりと涙がにじむ。
「まさかニューヨークで会えるなんて思わなかった!」
「私だって……! 昨日だって、舞台を観ながらドキドキしてたのよ」
「『Before Dawn』どうだった?」
エミリーの頬がほんのり赤く染まった。
「……すごく素敵だった。あんなに堂々としてて……それに、ね」
ちらりと隣に座るケビンを見やる。
彼は照れくさそうにグラスを持ち上げた。
「まあ、俺は舞台のときしか格好つけられない男だからな」
「そんなことないわ」
エミリーの声が、ふっと柔らかくなる。
そのやり取りを見ながら、テリィがにやりと笑った。
「なるほど……昨夜はうまくいったみたいだな?」
ケビンはグラスを口に運び、むせそうになった。
「て、テリィ! お前余計なことを!」
キャンディは笑いながらエミリーの手を取った。
「ねえ、本当にプロポーズされたの?」
エミリーは視線を落とし、小さく頷いた。
「……ええ。夢みたいに幸せ」
キャンディは思わずエミリーを強く抱きしめた。
「おめでとう、エミリー!」
その様子を眺めながら、テリィはワイングラスを軽く掲げる。
「じゃあ改めて、二人に――祝杯をあげよう」
グラスが軽やかに触れ合い、澄んだ音が夜に響いた。
ディナーの途中、ふいにキャンディが身を乗り出した。
「ねえエミリー、結婚式はいつするの?」
問いかけに、エミリーは少し恥ずかしそうに笑った。
「まだこれから決めるところなの。でも決まったら必ず招待状を送るから、キャンディも来てね」
「もちろん! 絶対に行くわ!」
キャンディはすっかり目を輝かせている。
「ニューヨークに住むことも決まってるんでしょう? だったら、いろいろ案内したいな。ブロードウェイはもちろん、セントラルパークとか美術館とか……」
「わあ、楽しみだわ」
エミリーは頬を染めながら、にこりと笑う。
キャンディはさらに続けた。
「そうそう、私ね、赤十字に登録してあるの。時々仕事の依頼が来て、お手伝いしてるのよ。でも、これから先は体調も見ながらになるけど、続けていきたいと思ってる」
「おめでとうキャンディ、あなたに子どもができたって聞いて、すごくうれしかったわ。…それに、 実は私も同じことを考えてたの。看護婦の資格を持ってるんだもの、ニューヨークに来ても何かの形で役に立ちたいって」
「そうね、私たち、たくさんのご縁で看護婦として働かせてもらってるんですもの、できることはさせてもらいたいわよね。」
2人は顔を見合わせて手を取り合った。
「じゃあ、一緒にやろうよ」
「うん、一緒に」
人の役に立ちたい、看護婦として力を尽くしたい――。
同じ思いが交わった瞬間、二人の間に柔らかな絆がまた芽吹いていくのが感じられた。
その横でグラスを傾けていたテリィとケビンは、ふと視線を合わせる。
言葉には出さずとも、互いの目が語っていた。
――こういうところが、好きなんだよな。
二人はほんのわずかに口元を緩め、同意するように頷き合った。
食後の紅茶が運ばれてきて、柔らかな灯りに包まれたテーブルで、キャンディとエミリーの声が弾んでいた。
「もう、本当に素晴らしかったの!あの場面、ローリーが無鉄砲に飛び込むところ、ケビンじゃなきゃできないって思ったわ」
エミリーは両手を胸の前で組んで、夢見るような表情だ。
「でしょ? 初日に観たとき私もそう思ったの。あの真っすぐさが観客を惹きつけるのよね」
キャンディもすっかり熱を帯びていて、頬を紅潮させている。
「それに大尉のあの一言……。静かなのに、全身から伝わってくる力強さ。舞台がぴんと張りつめて、息が止まるかと思った」
「うんうん! あそこは本当に名場面よね。私も胸が熱くなって、気づいたら涙が出てたの」
――と、ふたりで身を乗り出して褒め合っているうちに。
正面のテリィとケビンは、顔を見合わせて視線を逸らした。
ケビンは耳の先まで赤くしながら、グラスの水をやたらと口に運ぶ。
テリィは苦笑いしつつ、そっとナプキンで口元を隠した。
「なあ、ケビン」
「……ああ」
「こういうの、聞いてるほうが照れるよな」
「まったくだ」
ふたりのぼやきに気づかないキャンディとエミリーは、さらに盛り上がる。
「ケビンさんのローリーは観客の心を掴んで離さないの」
「テリィさんの大尉は、本当に“英雄”そのものだったわ!」
同じテーブルで褒められっぱなしの当人ふたりは、どうにも居心地が悪くなって背もたれに深く沈み込む。
それを見たキャンディが、からかうように笑った。
「ほら、2人とも恥ずかしがってる」
エミリーもくすっと笑って、グラスを掲げる。
「でも本当に素晴らしかったのよ。今夜はそのお祝いも兼ねて、ね!」
結局、女二人の熱のこもった言葉に押され、
男二人は照れ隠しにグラスを合わせるしかなかった。
キャンディとエミリーの笑い声が、プラザホテルの夜をいっそう温かく彩っていた。
ニューヨークの華やかな夜の片隅で、
新しい縁と祝福の輪がまたひとつ、静かに広がっていった。