ティーの香りがほのかに漂う中、談笑のひとときがひと区切りついたころ、公爵が低く咳払いをした。

「……さて、アードレー氏。今日、紹介しておきたい者がほかにも」


キャンディとアルバートが顔を上げる。

公爵の視線が執事に向けられると、執事は恭しく一礼し、扉の方へと歩いていった。


「兄上の弟君が、こちらに参っております」


その言葉にキャンディは小さく目を見張り、テリィは静かに頷いた。


一行は席を立ち、執事の案内で広々とした廊下を渡る。壁に並ぶ肖像画の眼差しが、まるで彼らを見守るかのように沈黙していた。


やがてサロンの扉が開かれる。

初夏の光が差し込む室内で、一人の青年が立ち上がった。


「兄上」


その声にはまだ若々しさが残りつつも、どこか誠実さのにじむ響きがあった。少しぽっちゃりとした体格に、優しげな灰色の瞳は、柔らかい雰囲気をまとっている。


「ジョージ、久しぶりだな」


テリィは一歩進み、軽く抱擁を交わした。兄弟の再会は言葉少なだったが、互いの目には確かな親愛があった。


次にジョージの視線がアルバートへと移る。


「お初にお目にかかります。兄上の大切な方を長らく支えてくださったと伺いました」


アルバートは静かに会釈する。


「彼らが歩む道を見守ることが、私に与えられた役割のようです。あなたに会えて嬉しい」


その言葉に、キャンディは胸を温かくしながら、ちらりと弟ジョージの方を見た。

以前の婚約報告のときよりも、ジョージはどこか大人びて見える。


「キャンディスさん、またお会いできてうれしいです」

ジョージは柔らかく笑った。

「兄上と一緒の姿を見ると、やっぱり安心します」


キャンディも思わず微笑み返す。

「こちらこそ。またお目にかかれて光栄ですわ」


「キャンディスさんは…」


「キャンディと呼んでください」


「じゃあ……キャンディさん。あ、すみません」


ジョージは少し照れ笑いを浮かべる。


「キャンディ…さんは、看護婦さんをされてると聞きまして驚きました。でも、すごいなって思います。人を助ける仕事なんて、僕はとても」


キャンディはふっと微笑む。

「そんな……私はまだまだ未熟です」


公爵が咳払いをし、場を整えるように声を低めた。

「人の命に向き合う職業を選ぶとは、立派なことだ」


ジョージはうんうんと大きくうなずく。

「はい、父上。僕もそう思います」



場の空気がほどよく和らいだところで、公爵が背筋を正した。


「さて……本日はせっかくの機会でもある。ここで一つ、お知らせしておこう」


皆一斉に顔を上げる。

公爵の厳かな声が、静かなサロンに響いた。


「次男ジョージの結婚が決まった。式は来年、ロンドンで挙げることになる」


キャンディは思わず目を見開き、ぱっと笑顔になった。

「まあ……!おめでとうございます」


ジョージは照れくさそうにうなずき、視線を兄へ向ける。

「兄上にも、ぜひ来ていただけたら……うれしいです」


テリィは短く息を吐き、けれどその目は優しく弟を見ていた。

「……そうか。ああ、もちろんだ。兄として出席する」


公爵が満足げにうなずいた。

「それでよい。家族の節目には、何よりもまず家族が立ち会うものだ」


窓の外では、風に揺れる葉がさやさやと音を立てていた。

小さな未来への予告のように――その日が近づいていることを、誰もが感じていた。