ニューヨーク、マンハッタンの一軒家。
ブロードウェイの喧騒から少し離れた住宅街に、テリィとキャンディ、そして第一子のオリヴァーが暮らしていた。
生後9か月のオリヴァーは、リビングの窓辺で木製のガラガラを振り回し、楽しげに声を上げている。
その隣でキャンディは、机いっぱいに積まれた荷物を見てため息まじりに笑った。
「……まぁ、ニューヨークまでよくぞこれだけ届いたわね」
送り主は二つの家――テリィの父であるグランチェスター公爵家と、キャンディの養父のアードレー家。
久方ぶりの男子誕生に、両家の祖父は競うように祝いを贈ってきていた。
まず届いたのは、アルバートからの大きな木箱。
開けると、中には 木馬、庭に設置できる 木製ブランコ。
添えられた手紙には、
「のびのび外で遊べる子に育ってほしい」とあった。
キャンディは笑顔で言う。
「アルバートさんらしいわね。オリヴァーに自由に育ってほしいって願ってるのよ」
テリィは工具を持って庭へ出ながら肩をすくめる。
「ま、健全だな。体を動かすほうが、こいつにはいい。だが、これから寒いけどな」
そこへ届いたのが、グランチェスター公爵からの荷物。
どっしりとした木箱を開けると、中にはスズの兵士人形の軍隊セットと赤い軍服、ミニチュアの剣や馬まで精巧に揃っている。
さらに別の箱には、革装丁の歴史書とラテン語の絵本まで入っていた。
キャンディは思わず息を呑む。
「まぁ……なんて立派なの!」
テリィは苦笑いしながら人形を一体手に取り、ぼそり。
「……早すぎるだろ。まだ立つどころか喋りもしないのに、“未来の公爵”を仕立てるつもりかよ」
キャンディは人形を机に並べながら小さく笑った。
「でもお気持ちは伝わるわ。希望なんでしょうね」
公爵の手紙には、
「立派な紳士となるための礎を贈る」
と記されていた。
10日後、アードレー家からは大きな凧 が届いた。
「風の日に父と一緒に飛ばせるように」と添え書き付き。
すると公爵家からは、銀のラッパと軍隊服の絵本が届く。
「規律と誇りを学ぶために」と。
リビングの片隅には、木馬やボールといった「のびのび遊ぶための品」と、兵士人形や教養書といった「貴族の素養を育てる品」が並んでいく。
キャンディはその様子に肩をすくめて微笑んだ。
「どう見ても……お祖父さまたちの競争ね」
テリィはオリヴァーを抱き上げ、小さな手を兵士人形に触れさせる。
だがオリヴァーは人形を無視して、父の髪をつかんで笑った。
「ほらな。こいつにとっちゃ兵士より、父親の髪を引っ張るほうが楽しいらしい」
テリィがそう言うと、キャンディは吹き出した。
やがてキャンディは静かに呟く。
「でも……どちらのお祖父さまも、本当にオリヴァーを心から喜んでくださってるのね」
「まあ、好きに贈らせておけばいいさ。俺たちは、こいつが笑っていられるように育てればいい」
テリィはそう言ってオリヴァーの頬を指先でつついた。
オリヴァーはキャッキャと笑い、キャンディもテリィもつられて笑う。
贈り物の山は派手すぎるほどだったが、そのすべてが「孫の誕生」を祝う温かな気持ちの証。
ある夜、キャンディはランプの下で便箋に向かっていた。
柔らかな笑みを浮かべながら、インクをペン先に含ませる。
「アルバートさんへ。
先日テリィのお父さまから、立派な兵士人形をいただきました。
オリヴァーはまだ遊び方もわかりませんけれど、触れてとても嬉しそうでした。
その姿を見て、私たちも幸せな気持ちになりました。」
もう一通、公爵への手紙にも同じ調子で。
「お義父さまからいただいた銀のラッパ、オリヴァーはまだ意味はわかりませんが、じっと見つめてにこにこしていました。
シカゴの方からの大きな凧にも使い方もまだわからないのに、目を輝かせていました。
皆さまがこれほど喜んでくださるのが、本当にありがたく思います。」
キャンディは封を閉じて、ふうと一息。
「こんなふうに書けば、きっと安心してもらえるわね」
そのとき。背後から、低い声。
「おい」
びくりとして振り向くと、いつの間にかテリィが立っていて、腕を組んで手紙を覗き込んでいる。
「な、なによ」
テリィはニヤリと笑った。
「おまえ……どう読んでも、じいさんたちを競わせてるようにしか見えないぞ」
キャンディは目を瞬かせて、きっぱり。
「そんなつもりないわ。ただ、みんなが喜んでくれて、うれしいって伝えたいだけよ」
「わかってる。わかってるけどな」
テリィは肩を震わせ、笑いをこらえきれなくなる。
「悪気ゼロでこれじゃ、余計にじいさんたちが張り合うだろうな」
「えっ……そうなの?」
キャンディは本気で不思議そうに首をかしげ、その顔を見てテリィはとうとう吹き出した。
キャンディはむっとして頬をふくらませたが、その様子にまた二人して笑い合った。