二か月にわたる『Before Dawn』の上演は、千秋楽まで客席の熱が下がることはなかった。

平日昼の回ももちろん満席、週末は当日券の列が朝から劇場前を埋め尽くす。

公演の評判は口コミから新聞、そして雑誌へと広がり、気が付けば“観ないと時代に取り残される”とまで言われる社会現象になっていた。


千秋楽の翌朝、ストラスフォード劇団は早々に年内の再演を発表した。

それだけでなく、提携先からの申し出により今秋ロンドン公演も決定。

発表と同時に劇団の電話回線はパンク寸前になり、事務所の前には新聞社や雑誌社の記者が詰めかけた。


ロンドン公演のポスターも急遽用意され、テリィが堂々と写っている。

ブロードウェイから海を渡るその視線は、役の重みを抱えたまま、観客の心を再び奪う準備ができていた。


もうひとつの社会現象は、メンズ・ニューヨーカーのトレンドだ。

街の理髪店では「BeforeDawnのテリュース・グレアムの髪型で」と注文する若い男たちが後を絶たない。


前髪は鋏で軽く梳かれ、額がのぞくように後ろへ流されていく。耳まわり整えられ、襟足は短めで、輪郭が引き締まる精悍な印象を与えるその髪型は、働く男性から学生まで一気に浸透した。


女性誌も「彼を観た彼女たちが、恋人を同じ髪型にさせている」と特集を組むほどだった。


当日券を求める行列は、すでに公演の“名物”と化していた。

列の脇では、ポスターやパンフレットを抱えた人々が開演前から語り合い、初対面同士が“仲間”として盛り上がる光景も見られた。


こうして『Before Dawn』は、単なる一作品を超えた。

演劇の枠を越えてブロードウェイの文化現象となり、その中心に立つテリュース・グレアムは、名実ともに「ブロードウェイの顔」と呼ばれる存在となったのだ。


再演の舞台、そしてロンドン公演――誰もが、その先を見たくて仕方がなかった。