宴も中盤を過ぎたころ、ケビンとマイケルが、パーテーションの裏に飛び込み、ゴソゴソと着替えはじめた。
しばらくして、ゲストの前に姿を現したのは——
黒マントをなびかせた、ケビン演じる“スカーレット・ピンパーネル”と、
そして、つけヒゲにフリルのシャツを身につけた、マイケル演じる悪の手先ショーヴラン(?)!
その真ん中には、ウェディングドレスを着せられたマネキンがポツンと立っていた。
ケビン「くっ……遅かったか! 愛しの“そばかす姫”が、悪の手に堕ちた……!」
マイケル「ふっふっふ……この姫の涙で、俺はフランス中のワインを割ってやるぞ!」
ケビン「ワインに何の恨みがあるんだよっ!」
思わず会場から笑い声が漏れる。
キャンディは、“そばかす姫”という単語でピクリと反応し、すぐさまテリィの方を見てヒソッとつぶやいた。
「ねえ……変なこと、教えた?」
「は?」テリィは目を瞬かせて振り向いた。「……俺、何も教えてないぞ」
「うそ。だって、“そばかす姫”って……」
「覚えてないけど……言ったことあるか?」
テリィは口をへの字にして考えるが、すぐに肩をすくめた。
舞台の上では、寸劇が最高潮。
ケビン「そばかす姫よ、俺が助けに来た!お前のそばかすはこの世の宝!!」
マイケル「この姫を渡してたまるか〜!!」
謎の殺陣が始まり、ふたりとも明らかに動きが緩慢。
最後は互いに剣(段ボール製)をクロスさせた状態で、マイケルがポーズを取る。
マイケル「な、なんてやつだ…!これが、ニューヨーク仕込みの役者魂…!」
ケビン「そりゃそうだ。“彼”と共演してきた俺たちだぜ…!」
「彼」はもちろん、新郎テリィのこと。
ゲストたちが「おお〜」と笑いながらも拍手を送る。
ケビン「姫よ、君は自由だ!」
そう言って、マネキンにバラの造花を差し出す。
が、突然マイケルが叫ぶ。
「ダメだ!そばかす姫が動かない!!」
ケビン「……そりゃそうだ、マネキンだもん!!」
ふたりでずっこけるように倒れ込み、会場は爆笑の渦に。
ケビン「というわけで!マントもスカーレットもやっぱり似合うのは、俺じゃなくてテリィだったな〜!」
マイケル「でもな、あいつより愛は込めたつもりだぜ!」
ケビンが新郎新婦に一礼し、
「キャンディさん、マントが似合ういい男、捕まえましたね!でも調子に乗らせすぎないように!」
マイケルも笑って言う。
「テリィ、君が主役なのは認めるけどさ……今日ばかりは、キャンディさんが主役だぞ」
キャンディは思わず目元を押さえながら笑って、
「ありがとう、もう……お腹痛いくらい笑った……!」
テリィは少し照れくさそうに、けれど穏やかに言う。
「……よくまあ、こんなに仕込んできたな」
「言ったろ?荷物が多くて汽車じゃ無理だって」
ケビンが得意げに笑った。
「まさかあんなマネキンまで積んでくるとは思わなかったわ」
キャンディも苦笑しながら、目を細めた。
会場は笑いと拍手に包まれ、ふたりの余興は、
この披露宴の「伝説の名シーン」として語り継がれることとなった。