アーチーが髪をくしゃくしゃにして後悔した日から、ちょうど一週間後。
「会わずに帰れるか」
覚悟を決めて、彼は無理やり仕事をこじつけ、ニューヨーク行きの列車に乗り込んでいた。
シカゴには、テリィと会って話をするまで戻らない。そんな決意でやってきた。
ニューヨークに着くなりホテルには向かわず、真っ直ぐブロードウェイのストラスフォード劇場へ。
ちょうど昼時、正面玄関は固く閉ざされていた。今は休演期間。
だがアーチーにはここに来た記憶がある──以前、謝罪のために訪れた、あのときと同じように。
劇場入口の端にある小さな受付窓をノックする。
「すみません。テリュース・グレアムさんを訪ねてきました。アーチーボルト・コーンウェルと申します」
「お約束はされていますか?」
「……いえ、ですが名前を伝えていただければ、わかると思います」
しばし沈黙ののち、「少々お待ちください」と受付の人物は奥へ消えた。
五分ほど経って、静かに戻ってきたその声は冷ややかだった。
「稽古中につき、お会いできないとのことです」
「あ……そうですか」
名刺を渡し、「折り返し連絡を」と言い残して劇場を後にした。
――しかし、その後一週間、テリィからの音沙汰はなかった。
最初は稽古で忙しいのだと思ったが、日が経つにつれ、アーチーは気づきはじめていた。
もしかして、会いたくないのかもしれない。
いや──きっと、自分の名前すら伝えられていないのではないか?
もどかしさが募り、アーチーは再び劇団に電話をかけてみた。
だが、返ってきたのはあっさりとした断りの言葉。
「どうやったら会えるんだ……」
あの日の偶然の再会を、どこか当然のように思っていた。
けれど今、テリィは遠い存在になっていた。
それでも、諦めるわけにはいかない。
もう一度、劇団を訪れる。先日の受付と同じ人物が対応した。
「また……お約束は?」
「ありません。ただ、『アーチーボルト・コーンウェル』が訪ねてきたと。もし覚えていなければ、“かつての同級生”だと伝えてください」
そう念を押して待つこと数分。
「……お会いできないそうです」
「……ほんとうに、伝えてくれましたか?」
「ええ、間違いなく。お名前も、同級生ということも伝えました」
窓はパタンと閉じられた。
まるで、心の中の希望まで閉ざされたようだった。
肩を落として劇場裏の路地を歩いていると、裏口の小さな扉が開き、一人の男性が出てきた。
アーチーは咄嗟に声をかける。
「すみません!」
男が振り返る。
見知らぬ顔だが、アーチーは迷わなかった。
「僕はアーチーボルト・コーンウェルと申します。テリュース・グレアムさんとはかつての同級生で、どうしてもお伝えしたいことがあるんです」
男は少し驚いたような顔で、「窓口でお願いできますか」と言いかけた。
アーチーは、最後の希望を握るように名刺を差し出す。
「お願いです。この名刺だけでも、彼に渡してください。彼からの連絡を待っています!」
その勢いに押され、男はしぶしぶながら名刺を受け取ってくれた。
「……わかりました。お渡しします」
そう言って扉の中へと消えていった。
残されたアーチーは、まだ胸の奥で小さく灯る希望の火が消えないように、深く息を吐いた──届いてほしい、この気持ちが。