ハムレット役のキャスティングが決まった次のひからは、劇団では次なる重要キャスト――ホレイショー役のオーディションが始まっていた。
ホレイショー。
それは物語の中で唯一、ハムレットを最後まで見届ける「友」であり、
ある意味“観客の視点”そのものでもあった。
この役のオーディションは、誰でも参加できるため、応募者は予想以上に殺到していた。
そして、ハムレット役を逃した者たちの再挑戦の場にもなるため、その競争は凄まじいものとなっていた。
「ケビン、おまえも出るのかよ」
「ま、数合わせにはちょうどいいな」
ざわつく周囲。軽口、皮肉、無関心――
ケビン自身、それがどういう空気かくらい、わかっていた。
(正直、俺だって“俺でいいのか”って思ってたさ)
でも、あいつの隣に立つ役が、誰でもいいわけないだろ。
そう思った瞬間、ケビンの中で何かが決まった。
最終オーディション。
選ばれた数名の中に、ケビンもいた。
だがそこには、主役を逃した俳優、舞台経験豊富な準主役級の男たちが名を連ねていた。
「ホレイショーとハムレットの対話シーンを演じてもらいます」
「ハムレット役の代演は、演出助手が務めます」
…空気がざわりと揺れた。
誰もが思っていた。
(これ、結局、主役落ちたやつらが有利なんじゃないのか?)
それでも、ケビンは立った。
演技が始まる。
舞台上の空気が変わったのは、彼の台詞の2つ目からだった。
ホレイショーがハムレットに向けて発する、ただの忠告や共感ではない。
そこには、心を砕くほどの思慕と理解、そして対等な信頼があった。
その理由は、ただひとつ。
ケビンは、“テリィのハムレット”を思い浮かべながら演じていた。
あいつなら、どんなふうに苦しむか。
どんなふうに目を伏せ、声を震わせるか。
どこで黙り、どこで爆発するか。
それを、ケビンは知っていた。
共に稽古し、何度も見てきたその姿を、
自分のホレイショーに重ねた。
結果は、翌朝の掲示板に張り出された。
《ホレイショー:ケビン・マクグラス》
劇団中がざわめいた。
「…まじかよ」
「え、ケビンってあの…?」
「嘘だろ、あのケビンが?」
どよめく空気の中、ケビンはただ黙って紙を見つめていた。
その夜、最終選考を終えた演出家が、スタッフ会議の終盤でふと漏らした。
「ホレイショーはね、上手いやつじゃダメなんだよ」
手にしていた名簿から、ある名前を指でなぞる。
「王子の苦しみを、黙ってでも“わかってしまう”奴じゃないと。…彼を、ひとりにしないためにね」
沈黙が流れる中で、別のスタッフがつぶやく。
「ケビン・マクグラス…でしたっけ?」
演出家は短くうなずいた。
「彼だけだった。演じてる間中ずっと、“ハムレットを見てた”のは」
だがケビンの大抜擢は、劇団中がざわめいたが、
ハムレットがテリュース・グレアムという衝撃に見事にかき消される
「まあいいさ。オレは“王子の右腕”だからな」
そう笑った彼の背中は、思った以上に誇らしかった。