翌日、オーディション2日目。
今日は“二人一組での演技審査”。
課題は、ハムレットとクローディアス、あるいはハムレットとホレイショー、オフィーリアなど、場面ごとに抜粋されたやり取りを、即興を含めて演じるというものだった。
演出家の意図は明確だった。
──演技力だけでなく、他者と呼吸を合わせる能力を問う。
テリュース・グレアムは、順番を静かに待っていた。
その隣で台本を握るのは、ライアン・クロフォード。
課題シーンは「ハムレットとクローディアス」。
つまり、敵役同士──火花が散らぬはずがなかった。
「よろしくな、プリンス」
ライアンは冷笑を浮かべたまま言った。
「…こっちのセリフです、殿下」
テリィもまた、表情一つ崩さず返した。
場内が静まり返る中、2人は舞台に立った。
演出家が一言だけ告げる。
「始めて」
クローディアスが王としてハムレットに言葉を投げる。
だが、それに返すテリィのハムレットは、一瞬の沈黙ののち──
「母上の寝所に棲む蛇は、もう毒を撒いています」
低く、感情を抑えた声だった。
だが、言葉の端に込められた激情が、見る者の肌を刺す。
ライアンのクローディアスも負けてはいない。
声を荒げず、それでいて威圧感のある抑制された怒りで返す。
「そのような妄言は、国を揺るがすぞ、ハムレット」
──台詞ではある。けれどそれは、闘いだった。
互いの力量をぶつけ合い、支配するか、沈められるかの。
テリィの瞳は揺るがない。
真っ直ぐに相手を射抜く目。
そこに怯みも躊躇もない。
一方のライアンも、彼の一歩先を踏もうと、言葉を探し、感情を押し込めて吐き出す。
審査官たちは誰一人として目を逸らせなかった。
このやり取りこそ、まさに“ハムレット”の核心に触れる瞬間だった。
そして数分後、演技が終わった。
場内に静寂が戻る。
テリィが一礼し、舞台を下りようとしたとき。
ライアンが小さく声をかけた。
「たいしたもんだな、グレアム。代役上がりのくせに」
皮肉とも、呟きともつかない声だった。
テリィは立ち止まる。だが、振り返らずに答える。
「俺がどこから上がってきたかなんて、関係ない。舞台の上で、誰が本物か、それだけです」
ライアンは何も言わなかった。
だが、その眼差しから、敵意は消えていなかった。
控え室に戻ると、ケビンとマイケルが出迎えていた。
「あのライアンと互角以上にやり合うなんてな」
「互角じゃない、あれは…完全に、テリュースが喰ってた」
ふたりの言葉に、テリィは静かに笑った。
「…火花を散らして、燃え残るものが本物になる。それだけのことさ」
その言葉を聞いていた主役級のベテラン俳優、エドワード・ヘイスが、軽くうなずいて立ち上がった。
「…やれやれ、君のその目は、若すぎてまぶしい」
そして、呟いた。
「こりゃ、厄介な奴が出てきたな。だが、面白くなってきた」
ふたたび火花が散った。
だが、それは始まりにすぎなかった。