公演最終日。

10日間、昼夜計20公演。

1つとして同じ夜はなく、観客の空気が、朗読の声の響き方を変えた。

舞台は常に、誰かの「心」でありつづけた。


5人の俳優たちは、決して自分の名を語らない。

演じる者ではなく、「声を預かる者」として立ち続けた。


そして最後の夜。

舞台袖で、俳優たちは互いの背中を見守り合いながら、言葉を交わす。


「……寂しいですね、もう終わりだなんて」

「俺、朗読劇ナメてたかもしれない。めちゃくちゃ勉強になりました」

「またやりたいな、このみんなと」

「“あの手紙”の最後、グレアム君で良かったと思ってるよ」


テリィは静かにうなずき、千穐楽のステージへと向かう。


照明が落ちる。

静寂が降りる。

“最後の手紙”の朗読が始まる。




声は、まるで返事のように響いた。

観客たちは、これまでの20通の手紙のうち、どれかに応えるような“余白”をこの最後の声に見出した。


テリィの声が、静かに夜を包み込む。


やがて、最後の一言。


「……あなたが幸せなら、それでいい。

でも、もしどこかで、少しだけ振り返ることがあるなら

……そのとき、どうか“俺”を思い出してくれ」


そして舞台が暗転。

静寂が、すべてを語る。まだ余白を楽しんでいるようだ。


やがて終演のブザーが響くと、我に返ったように観客は夢中で手を叩いた。


彼らの耳には、まだ“声”が残っていた。

あの、姿の見えない声を――。




◇◇◇◇◇◇◇



【テリィが朗読した“手紙”の全文】


忘れようとしていた。

思い出さないようにしていた。


あなたの名前も、仕草も、声も――全部。


でも、ある日、あなたに名前を呼ばれた気がして、心臓が跳ねた。

違うとわかっていても、胸が痛んだ。


あなたがいない日々に慣れていくのが、

なんだか裏切っているようで、

罪悪感のようなものに襲われた。


でも、あなたはたぶん、そんなこと望んでない。

忘れてもいい、前を向いてほしいって、そう言うだろう。


わかってるよ。


でも、それでも、伝えたかった。

あなたを、

今でも、

愛しているって。


どこにいても、

誰といても、

あなたの幸せを祈ってる。


だから、これは手紙じゃない。


祈りだよ。


名前も、宛先も、もう書かない。

それでも、いつか届くと信じて、

この想いを、夜空に放つ。


……さようなら。

そして、ありがとう。