千秋楽の翌日。
チャリティー舞台『スカーレット・ピンパーネル』を終えた出演者とスタッフが、最後の解散式に集まった。
「じゃあ、締めのひと言ずつ…って感じでいいですか?」
演出助手の一言で、輪になったみんなが順に話し始めた。
最初に声をあげたのは、マイケル。
「この解散式、絶対泣くと思ってたけど…今めっちゃ腹減ってる」
「そこ!?」と笑いが起きる。
「でも、みんなと同じ空間で、同じ舞台をつくれたこと…たぶん俺、一生忘れないです。ありがとうございました」
次にメアリ。
「私、あのルビーと共演できるなんて、最初ちょっと緊張してたけど…ルビーがよく食べるの知ってから安心しました」
「ちょっと! そこ今言う!?」
ルビーも苦笑しながら、順番を受け取る。
「最初は正直、自信なんてなかった。でも、何度もやり直したあの稽古、舞台上の視線、袖での小さな励まし…全部が私の支えになってました。ありがとう、みんな」
ケビンは、テリィを見ながら笑う。
「テリュースに勝とうと本気で張り合ったの、実は初めてだったかも。負けっぱなしだったけどさ、負けて悔しいと思える相手がいるって、幸せなことなんだなって思ったよ」
ノアは少し間をおいてから。
「笑い担当のつもりでいたけど、いつの間にか真剣に向き合うのって、悪くないなって。…笑ってもらうために、本気で芝居する。そんなこと、ここで初めて知った。ありがとう」
そして、少しの沈黙を置いて、テリィが言う。
視線を下げたまま、ゆっくりと口を開く。
「…俺は、人と芝居をつくるということに、ずっと距離を感じてた。だけど、この舞台では、それが自然だった。何かを合わせようとしたわけじゃなくて…一緒に、前に進んでた感じ…
…誰かとぶつかっても、間違っても、ちゃんと立て直せると、ここで初めて思えた。…だから、ありがとう。俺は…変われた気がする」
と、ふわりと笑った。
ルビーは思わず、それを見て小さく拍手をした。
それが次第に広がり、全員の拍手になった。
最後に、演出家がぽつり。
「不思議な座組だったな。正直、最初は心配だった。でも、みんな…ちゃんと、自分の役だけじゃなく誰かの人生を舞台に載せてた。そんな芝居を見せてくれて、ありがとう」
解散式のあとの片づけは、なぜか誰も急がなかった。
衣装ラックを戻しながら、台本をバッグにしまいながら、誰かがつぶやいた。
「…終わっちゃったね」
すると誰かが答えた。
「いや、始まったんだよ。きっと、ここから」
そして静かにうなずいた顔の数だけ、新しい明日が生まれようとしていた。