テリィが地方公演に出ている間、手紙はすべて劇団宛に送ることになっている。
巡業の日程や滞在地は劇団が管理しているため、本人の居場所を細かく書く必要はなく、また封筒は、劇団員があらかじめ家族に渡している専用のもののため、一般の手紙との区別が容易にできる。
その夜、キャンディはペントハウスの書斎机に向かっていた。
街の灯りはすでに十分に落ち着き、窓の外ではニューヨークの夜が深まりつつある。
ランプの柔らかな光が、机の上の白い便箋を照らしていた。
ペンを持ったまま、書き出しの一行が、まだ決まらなかった。
テリィは地方公演で数週間、この家を離れている。
テリィのいない部屋は妙に広く感じられ、音の少ない夜が、いつもより長く続いているように思えた。
(……もう、寝ているかしら)
遠い街の、知らない宿舎。
舞台を終えたあと、遅い食事を取って、今頃はきっと、静かな部屋で身体を休めているはずだ。
そう思いながらキャンディは便箋の上に、そっとペン先を下ろした。
テリィへ
今日は、あなたのいないキッチンで夕飯を作りました。
一人分だと、どうしても量を間違えます。
多すぎたり、少なすぎたり……少し笑ってしまいました。
「誰かのために作る」ということを、どれほど当たり前にしていたのかに気づきました。
ちゃんと食べていますか?
舞台が続くと、どうしても後回しになりがちでしょう。
無理はしていませんか。
こちらは、特に変わりなく過ごしています。
ただ、夜になると少しだけ、部屋が広く感じるくらいです。
キャンディ
キャンディへ
こちらは、思っているより規則正しい。
公演後は遅くなるが、劇団の連中に引き止められても、ちゃんと席を立つようにしている。
きみの心配が、文字の端々に滲んでいるのがわかる。それが、ありがたい。
それから……きみの字を見ると、不思議と心が暖かくなる。
宿舎の明かりは簡素だが、この手紙があるだけで、夜の感じが変わる。
無事でいるよ。だから、あまり案じすぎるな。
テリィ
テリィへ
あなたが無事だとわかって、ほっとしました。
でも、舞台が終わったあとの疲れは、きっと想像している以上のものですよね。
どうか、自分を後回しにしないでください。
あなたがどんな街で、どんな部屋で、どんな灯りの下でこの手紙を読んでいるのか。
それを想像すると、不思議と距離が少しだけ縮まる気がします。
ちゃんと食べている、と書いてありましたが、できれば、私の顔を思い浮かべながら食べてください。
そうしたら、少しは味も変わるでしょう?
キャンディ
キャンディへ
舞台に立つ前も、終えたあとも、きみの顔を思い浮かべている。
それは、癖のようなものだ。
やめようとしても、やめられない。
きみの言うとおり、食事のときも思い浮かべている。案外悪くない。
……早く帰りたい。
テリィ