助っ人は古代人(2)
「ああ忙しい、忙しい!」
「どうしてこんなに忙しいんかいな」
猫の手も借りたい忙しさとは、このことを言うのでしょうか。どこもかしこも人手が足りません。不況にあえぎ失業者で溢れた過去も今ではすっかり昔話になっていました
「昔は良かった。何せ人手不足は地方から、地方が駄目なら海外があったのだから」
こうした嘆き節も虚しく、この世界には最早、労働力を供給できるような発展途上国など存在しないのです。このままでは、あらゆる産業が成り立ちません。

ある日のことです。「そうだ、現在が駄目なら過去があるさ」の一言から古代人の活用が論議されました。
「おいおい、そんなの連れてきて何をさせるって言うんだい」
「旧石器でも作らせるつもりじゃないんだろうな」
嘲笑を浴びたものの背に腹は変えられません。こうして古代人の雇用が始まったのです。
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さあ各職場に配置された古代人。勿論『危険、汚い、暗い』はお手のもの。しかも、時間の概念だけでなく、金銭的な観念にも乏しいとあれば経営者には願ったり叶ったり。何せ、勤務時間は無制限で、それも無報酬なのですから。
こうして瞬く間に労働力不足を解消した古代人。経営者側はウハウハかと思いきや、これも長くは続きませんでした。
なぜなら古代人は勤勉で現代人とは比較にならないほど働き者です。それだけではありません。マニュアルに支配され思考力の欠落した現代人とは違って彼らには応用力があるのです。知的好奇心と、そこから涌き出る創造力たるや我々、現代人の及ぶところではありませんでした。
その後も古代人の進出は目覚ましく、いつしか組織の中枢を担うまでになっていました。
こうなると、もう古代人ではありません。とうとう侵略者と見なされ排斥運動にまで発展してしまったのです。でもそこは大人の古代人のこと。文句ひとつ言わずに淡々と古里へと帰ってゆきました。
古代人の去った世界はどうなったでしょうか。それはもう身も心も荒んだ退廃した社会でした。
するとまた、どこからともなく「困ったもんだ。なにか名案はないかのう」の嘆き節が、、。そして「古代人を見習え」といった声が日増しに大きくなっていました。でも悲しいかな、全員が古里へ帰ってしまった今、見習うべき古代人など何処にもいないではありせんか。
誰もが悩みました。そして考えに考え抜いた末に、ある結論に達しました。
「そうだ、現代人を古代へ送ろう」
「古代社会で研鑽を積めば、あの日の栄光を呼び覚ませるかも知れない」
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こうして多くの現代人が研修のため古代社会へと送り込まれました。
《《メデタシ、メデタシ》》😩
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《前回に続く》
【下がり続ける出生率】
深刻な人手不足の中、我が国の(合計特殊)出生率は、とうとう禁断の領域でもある1.15まで降下してしまった。出生率は一旦下がるとなかなか元に戻らないもの。半減は瞬く間でも倍増など不可能に近い。現状維持であれ極めて難しいのだ。以前に『日本の寿命はあと90年』と書き綴ったが、それでは済まないかも知れない。前述の如く、この9年で3割(約32万人)も出生数を減らしているのだ。しかも益々拡大する傾向にある。22世紀を待たずして本当に縄文時代に回帰してしまうのではなかろうか。
【出生数の年次別推移】
朱鷺(トキ)の『キンちゃんギンちゃん』を覚えているだろうか。かつては日本各地て見られたが数羽まで激減。その後、環境省主導で回復に努めたものの高齢化著しく、すでに時遅しであった。現在のは中国から移入した種であり純国産としては『キンとギン』が最後の朱鷺として知られている。
昨今の人口構成もこれと同じだ。異次元?の少子化対策が功を奏して奇跡的にも(人口置換水準の)2.07まで回復したとしよう。だが、タイムラグは如何ともしがたい。これでさえ一世代から二世代後には半減してしまう。しかも現実は1.0をも下回りそうな状況にある。結果、朱鷺の運命よろしく、この国を蝕んでゆく。そう完全な手遅れなのだ。

❋これ迄、労働力の供給源だったアジア諸国でも人手は足りない。今や奪い合いにある。結果として報酬は上がるばかり。日本より遥かに高収入が見込める欧米や中東、中(都市部)韓、シンガポールに加えて、こうした国々でさえ日本を凌ぐのは時間の問題にあるのだ。これでどうして日本に来ようか。
労働力の確保も困難を極める。最早、外国人云々どころではない。コンビニや大手スーパーでさえ日本人より外国人の方が賃金が高いといった逆転現象さえ起き始めている。日本人だけでは働き手が足りない。外国人で補うにも日本人と同じ給与体系では誰も来ない。そこで日本人よりも大幅に吊り上げて獲得競争に奔走しなければならなくなるのだ。
因みに、AI化に伴う日本企業が外国人(のIT技術者)に支払う初任給は、純粋な日本人が25万円なのに対し、中国人50万円、インド人なら100万円以上が相場になりつつあるとか。アジアだけではない。アフリカ諸国だって例外ではない。そして全業種に及んでゆく。最早、諸外国に見られる「低賃金の外国人就労に雇用を奪われる」や「それによって自国民の賃金まで低く抑えられてしまう」といった排外主義の論理も、この国にだけは全く通用しないのだ。結果、僅かに残っていた日本の若者も豊かな生活を求めて海外へ流出。こうして近代史上類を見ない『外高内低』の社会が到来することになる。やはり、この国(日本人)も、かつての朱鷺と同じ運命を辿るのだろうか。