①日本人が消える、そして外国人も消える

 初任給の伸びが目覚ましい。20万円の半ばどころか30万円に届くケースさえ珍しくない。年率では20%を上回り、あのバブル期を凌ぐ大盤振る舞いである。だが、これとて急激する若者の奪い合いであり、その恩恵が全体に及んでいるかといえば疑問でしかない。ことに雇用総数の大半を占める中小企業からすれば夢物語ではなかろうか。一方、こうしたも問題も。

〈上がったように見える平均給与も・・〉

(国税庁データより)

〈・・この30年以上も下がり続けたことから、やや戻したに過ぎない〉

 我が国の所得水準は高いのか否か。一時的には上がったとはいえ30年以上に渡って下げ続けている。これが何を物語るだろうか。世界市場を席巻し『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と持て囃されたかつての面影はもうない。為替レートを加味しても低開発国へと(逆戻り)一直線なのだ。この先はどうなるのだろう。所得水準で世界の下位に沈む国々にまで抜かれてしまうことはないのだろうか。それもあと僅かな期間で・・。

〈低所得国ランキング〉

(1)中央アフリカ共和国 656ドル
(2)コンゴ民主共和国 784ドル
(3)ブルンジ共和国 818ドル
(4)リベリア共和国 882ドル
(5)ニジェール共和国 1113ドル
(6)マラウイ共和国 1139ドル
(7)モザンビーク共和国 1228ドル
(8)ギニア共和国 1271ドル
(9)エリトリア 1321ドル
(10)マダガスカル共和国 1504ドル

 最下位の中央アフリカ共和国が年率10%で伸びたとしよう。656ドルは約9万円である。すると、1年で9.9万円、2年で10.89万円、10年では23.34万円、30年後には157万円に増え、40数年で今の日本に並ぶことになる。10位のマダガスカルなら34年だ。既に100万~200万円で(日本の)非正規社員並みの所得水準にあるアジアの国々には、あと十年もすれば抜き去られてしまうだろう。もし『失われた30年』が、40年、50年と続くようなら、その差は更に縮まってゆく。

 日本もかつては同じだった。昭和30年代初頭の平均給与たるや1万円にも満たず世界の最下層に位置する極貧国家であった。文明の利器と言えば、ラジオに裸電球、それに自転車くらいだ。それが、オリンピックや高度成長を経た昭和40年代後半には世界に名だたる先進国であり、経済大国の仲間入りを果たしていた。その間、僅か十数年のことである。四半世紀前、誰が韓国に抜かれ、中国に追い付かれると思っただろうか。

〈主要各国の所得水準の変遷〉
(今や日本は世界25傑にすら登場しない)

 現在、我が国は少子高齢化もあって深刻な人手不足の真っ只中にある。農林水産業は絶対数が足りない。物流も運転手不足から大混乱。交通機関は機能不全に。サービス業だって“おもてなし”どころではない。高齢者福祉に至っては介護士と利用者の数的乖離は如何ともし難い。バブル崩壊にリーマンショックと大量の失業で溢れた時代であれ介護の分野には寄り付かないのだ。豊かな生活を味わった以上、如何に貧しくとも○○の世話(失礼!)だけは絶対にしたくない、といったところか。

 そこで浮上するのが外国人の活用である。不足する労働力を外国人就労で補う案だが、これがなかなか上手くいかない。前述の如くアジア諸国は成長の一途にある。韓国、中国(都市部)に続いて、次々と日本をゴボウ抜きしそうな勢いにある。誰が好き好んで自国や周辺各国の高収入を捨ててまで賃金の安い日本に来ようか。今や、移民も流入でなく、日本人の海外流出が大きな社会問題になりつつあるのに。日本人のスキルは極めて高い。高収入に引かれて、日本人の方が、これらの国々に流れているのだ。

(2025年現在の人口構成)
(総務省データより)

 2025年(6月現在)の人口は前年より5万3166人少ない1億2336万人。出生数(2024年)は前年より4万1277人減少の68万6061人だった。一方、65歳以上の高齢者は2万人増えて(2024年9月15日現在)3625万人である。これまでにも増して、より少ない若者がより多くの高齢者を支えねばならないのだ。こうした中、いつも登場するのが『AIが解決する』である。これとて、聞こえはいいものの、どこまで機能するやら。高齢者問題のピークは団塊世代が80歳を迎えるこの数年にある。今現在実用化していなくてどうして間に合おうか。

 それでも永田町や霞ヶ関は言葉遊びばかり。常套句を繰り返すだけで時間を費やしている。このままなら若者はこの国からいなくなってしまう。若者だけではない。富裕層だって同じだ。こうして、この国の高齢化は更に進み、それも貧困層だけが取り残されることになる。無論、社会保険制度は崩壊し年金など支給されるはずもない。日本列島が姥捨山になるのだ。ボス争いをしている場合ではない。この国の未来を案ずるなら、もっと抜本的な成長戦略を打ち出して欲しいものだが、かといって間に合うかどうか。残された時間はあと僅かしかない。

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 ②右傾化に立ちはだかる未来

 世界の趨勢は徴兵制復活に…

 参院選は与党の惨敗に終えた。そして外国人に否定的な勢力が大きく票を伸ばした。国の存続に純血が一番なのはいうまでもない。だが日本の場合はどうか。100万人割れから数年で70万人をも下回った出生数は尋常ではない。出生率の1.0は一世代毎の半減を意味する。現在の数値(1.15)は限りなくこれに近い。それもまだ序章に過ぎないから恐ろしい。今年の出生児が結婚適齢期を迎える頃、この国の出生数は30万人台に落ち込んでしまうのだ。そして『ゼロへゼロへ』と氷解の如くに縮小してゆく。それも僅かな期間で。

 今や排外主義は世界の趨勢でもある。そして軍拡を競う。あのドイツでさえ徴兵制復活の動きにあるとか。だが置かれている状況は我が国とはまるで違う。国粋を唱える国であれ、その(流入者の)大半が国籍を取得している。だから兵役義務を負う。ただ単に『出稼ぎ』でしかない日本とは意味合いが違うのだ。米軍だけではない。欧州各国だって然り。その多くが移民やその子息であり、過半数を超えることさえ珍しくない。そう、排外主義を唱える国々であれ、その構成たるや『多国籍軍』そのものなのである。

 日本の場合はどうか。国籍の取得には世界で最も厳しいとされるハードルをクリアせねばならない。日本人と結婚でもない限りはなかなか認められないのだ。官報に公示される数万人とされる帰化数も、その殆どは“在日”であって、こうした民族を除けば国籍取得など無いに等しい。

 ❋我が国に於ける帰化数は、その大半が在日をカウントしたものであり、純粋な国籍取得だけを見れば諸外国の中でも突出して少ないことが分かる。

  国籍取得者(帰化)の年次別推移

❋このように在日を除けば微々たる数字でしかない。1億2千万の人口に対して僅か数百人なのだ。これは福岡や札幌市といった百万都市に年間一人しか認められないのに等しい超難関なのである。

 近い将来、この半世紀で十分の一にまで落ち込んだ若者を巡って、これまでにない争奪戦が始まる。無論、徴兵制もそうだろう。現在の兵力を維持しようとすれば若者は全て兵役に就かねばならない。すると、人材の枯渇著しく、全業態が崩壊の危機に直面する。高齢者を活用するにも彼(女)らとて不老不死ではない。早々に欠落する運命にある。そう、理想論を突き詰めれば突き詰める程、この国は瓦解してしまうのだ。近代史でも前列のない人口激減の下での国粋主義への回帰。何か矛盾した話ではあるが。