【創作童話、足利編】
〈フラワーパークイルミネーション〉
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「夢はいかがですか?」
「貴方も素敵な夢をみませんか」
とある街には、こうして毎日、夢を売り歩く少女(織姫)の姿がありました。
彼女には夢を与える不思議な力があるのですが誰も信じません。いや信じようとはしないのです。
少女には病弱な母親と幼い弟がいました。少女の稼ぎだけが支えの、とても貧しい家庭でした。
人々は口を揃えて言いました。
「自分が貧乏で、どうして他人様に夢など与えられようか」
ある晩のことです。その日は満月でした。いつもの夢を売っていると、痩せこけた、それはもうみすぼらしい風体の老人が立っていました。
老人は言いました。
「このわしにも夢を売って下さらんか」
見るからに貧乏で、とても代金を支払えそうにはありません。
でも少女は「おじいさんの夢は何ですか? 必ず叶えてあげましょう」と笑顔で答えました。
すると老人は「愛じゃ、このわしに愛を下さらんか!」と、これまでにない難しい要求をしてきたではありませんか。
少女は困りました。なぜなら、これまではお金や贅沢品であり、地位や名誉であって、見栄や外聞を満足させる品ばかりだったからです。
しかも、手に入れた途端に「これは自分の力なのだ」と思い込み、感謝する者さえ誰一人としていませんでした。
少女は、老人には身寄りがなく家族愛に飢えているのでは、と思いました。そこで「私の家でよろしかったら、どうぞお越しください」と、一部屋だけの狭い我が家に招き入れたのです。
老人は驚きました。そして温もりを与えられたことに心から感謝しました。こうして家族の一員として新たな生活が始まりました。
貧しい一家に病弱な母親と幼い弟、そこに行きずりの老人まで加わったから、さあ大変! と思いきや、家の中には笑いが絶えません。
なぜなら、この母子にとって幸せとは家族であり、その家族が増えたのですから何にも増して幸せだったのです。
それから1ヶ月が過ぎた満月の晩のことです。この日も家族団欒に四人はとても幸せでした。それが突然、不幸が襲いました。病弱な母親が倒れてしまったのです。
少女は困り果てました。医者に掛かろうにも、そんなゆとりはありません。しかも自分自身の夢だけは授かることが出来ないのです。
初めて少女は自らの能力を恨みました。自らの非力さを嘆きました。
その時です。老人が立ち上がり、その母親に手をかざしたのです。するとどうでしょう。母親の体を蝕んでいた邪気が抜け落ちて、たちどころに元気になったではありませんか。
もう病弱などではありません。すっかり健康な体になっていました。
それからというもの、少女には不思議なことが起こりました。やがては夢を買う者も増え生活も豊かになりました。でも幸せではありませんでした。
それは家族と暮らす時間が削られたからではありません。自分に夢が入ることに疑問を感じたのです。自分自身ではなく貧しい人々にだけ夢を与えたかったのです。
それからしばらくして、やはり満月の晩のことです。少女は夢を見ました。夢から覚めると、そこは大きな御殿の中でした。豪勢な食事が並ぶテーブルの隣には若く美しい王子(彦星)が座り、少女(織姫)の耳元でこう囁きました。
「私は敵対する悪魔に呪文をかけられ路頭に迷っているところを貴女の優しい心根に助けられました」
「こうして元の姿(彦星)に戻れたのも貴女(織姫)のお陰です」
「もう私は貴女なしでは生きられません」
「どうか、この私と生涯を共にして、今度は貴女の幸せを、より大きなものにさせて頂きたいのです」
少女は驚きました。申し出の嬉しさに涙が溢れました。
でも、その後、少女がこの夢を受け入れたかどうかは定かでありません。
しかし現王妃は、あの頃の少女そっくりで慈悲深く、常に大衆の夢実現のためだけに一生懸命尽くしていることだけは付け加えておきます。
〈〈〈おわり〉〉〉
>by笑生
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【織り姫神社/足利市】
【栃木県の足利市は足利学校や鑁阿寺だけではありません。織姫神社や渡良瀬川、フラワーパークに栗田美術館など、街並みには夢が溢れています。是非一度、皆様も『夢わたらせ街』を味わってみませんか】
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『暑中お見舞い申し上げます』