辺名おじさんの顔探しの旅(2)

《貴方は自分自身の顔を見たことがありますか》

(すばる望遠鏡/国立天文台画像より)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 この世で最期まで見ることの出来ないものは何でしょうか。それは宇宙の果てでも素粒子でもありません。貴方自身の顔なのです。なぜなら、鏡で見る顔は左右が逆ですし、映像や写真であっても被写体なのですから自分自身の本当の顔を知ることだけは絶対に無理なのです。

 爆笑ムキーショボーンニコニコ

 あるところに、「どうしても自分の本当の顔を知りたい」と考えた、とても変な人がいました。文字通り、その名も『辺名飛斗』で、巷では『辺名おじさん』と呼ばれていました。

 辺名おじさんは旅が大好きでした。でも、どうしてもしたいのは「自分探し」でした。もう、いてもたってもいられません。こうして『本当の自分の顔を求めて』永遠の旅に出ることになったのです。

 行けども行けども行き交う人は他人ばがり。なかなか本当の自分の顔には出会えません。水辺で右目を閉じれば、そこに映るのは、いつだって左目を閉じた変な顔をしたおじさんだけでした。

 ある日のことです。辺名おじさんはひらめきました。

 「そうか、他人になればよいのか」

 「他人の顔を使えば本当の自分が見えるはずじゃ」

 とはいえ、そう簡単なことではありません。金品ではないのですから、自分の顔を貸すなんて、とても考えられないことなのです。あれだけ元気だった辺名おじさんも疲れ果て、とうとう道端に座り込んでしまいました。

 その時です。狐が一匹、草むらの陰から、じっとこちらを覗いているではありませんか。辺名おじさんは「しめた!」と思いました。そして、その狐に大好物のお稲荷さんを差し出し、こう言いました。

 《折り紙でキツネ》
 
 【ん?? イタチにしか見えないって!? 細かいことは気にしない、気にしない・・😢】

 「どうじゃ、このわしと入れ替わろうではないか・・」

 化かすのが何より得意な狐のこと。お稲荷さんを見せつけられては断る理由などありません。こうして辺名おじさんは、ついに他人ならぬ、キツネの身体を手に入れたのです。

 狐になった辺名おじさんは、早速「自分はどこだ?」と探し始めました。でも不思議でした。目の前にいるはずの自分自身がどこにもいないのです。いるのは狐だけで、どう見ても狐になった自分自身と瓜二つなのです。

 騙されたと知った辺名おじさん。とても怒りは収まりません。そして、「キツネはもう懲りごり」とばかりに人間界に舞い戻り、「今度こそ」と思いを新たに顔を貸してくれる他人(ヒト)だけを探すことにしました。

 長い旅路で辺名おじさんは髪も髭も真っ白になっていました。その容姿は誰が見ても仙人そのものでした。

 ありゃりゃ、仙人となると状況は一変。どこからともなく「貴方様の為なら、どうぞこの身をお使い下さい」となるから世の中とは不思議なものです。瞬く間に待望の「他人」になっていました。

 「これでやっと自分の本当の顔が拝めるぞ」と、恐る恐るその顔を除き込んでは見たものの、どこか変でした。そこにあるのは自分自身には似ても似つかぬ奇妙な顔なのです。しかも人間ではありません。目のつり上がった獣の形相でした。

 辺名おじさんは、ここで初めて気付きました。そうなんです。自分の過ごしてきたこれまでが幻想で、今そのものが現実だったのです。

 《境内に棲みついたキツネ》

【ご馳走の食べ過ぎでコンなにもメタボに!?】

 自分を知り、やっと居場所を見つけた辺名おじさん。今日も神社の境内に座って、お稲荷さんのお裾分けを楽しみにしているそうです。

〈おわり〉


□□■■□□■■□□■■□□

《余談》

【もう一つの防災用(必需)品】

 先日(3月18日)熊本県の天草地方を震源にM4.8の地震が発生。最大震度は4を観測し緊急地震速報まで発令されている。翌日には能登半島沖でもM4.8の地震(震度4)があった。余震なのか否かはともかく、どちらも大地震から間がないだけに気になるところだ。

 まもなく熊本地震から9年。ここ数年の活動状況からして、まだまだ続きそうな気配にある。南海トラフや首都直下地震だけではない。全国的な発生確率の高まりからも“想定外”を含めて。

 〈〈防災用品一覧〉〉

(画像はネットから借用)

   こうした中、身を守る上でも『備えあれば・・』に優るものはないようだが、その防災用品としては、どういったものを思い浮かべるだろうか。多くは、水や食料、衛生用品、そして貴重品ではなかろうか。可能なら、テントに寝袋、防寒(暑)具まで。充電用(通信機器)のバッテリーだって然り。だがもう一つ肝心なものを忘れてはならない。

 それは『現金』である。だからといって大金のことではない。関東や東北地方に在住の方には、あの『311』を思い出して頂きたい。何とか営業を続けた僅かな店舗であれ停電には勝てない。そう『キャッシュレス』が完全に機能不全に陥っていたことを。それも昨今の浸透率だるや当時の比ではない。○○ペイに○○カードと枚挙にいとまがない。いわば、ある日突然、IT社会が算盤の時代に逆戻りしてしまうのだから。

 但し、現金払いにせよ、それで一件落着とは限らない。電子マネー全盛の社会にあっては釣り銭だって満足に用意していない。これでは滞ってしまう。スムーズな売買には万札より『9999円』の方が役に立つのだ。必要なのは大金より小銭。あくまで『営業』している店舗があっての話ではあるが。