東京一極集中は数字のトリック

 先日(1月31日)総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口移動報告(2024年)によると、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に於ける転入超過は13万5843人だった。前年比では9328人の増加。内訳は、東京都が7万9285人、神奈川県2万6963人、埼玉県2万1736人、そして千葉県の7859人である。

(画像はネットから借用)

 男女別では、男性が6万3784人、女性が7万2059人と女性の方が8275人多い。全体では20〜24歳が約6割を占め前年(23年)より5371人増の8万6908人。 大阪圏も2679人の転入超過で、現在の集計方法を採用した14年以降、初めて転出超過から転入超過に転じた。名古屋圏は1万8856人の転出超過で前年より535人拡大している。
(総務省、住民基本台帳人口移動報告2024)

 都道府県別にみると転入超過は7都府県。東京都、大阪府、千葉県は超過幅を拡大し、埼玉県、神奈川県、福岡県は縮小した。転出超過は40道府県に及びその数値が最も大きいのは広島県の1万711人だった。

 《日経記事より》

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〈以下、過去記事と一部重複〉

 こうした中、いつも問題視されるのが東京への一極集中である。そして各メディア共に是正を説く論評で溢れる。でもどうなのだろう。本当に東京は一極集中なのだろうか。数字の上では突出しているとはいえ、全国的な急減傾向にあって、ただ単に目立つだけではないのだろうか。視点を変えると、中らずと雖も遠からずで、この国の末路を暗示しているようでもある。

 そもそも人口の増減は転出入数だけではない。その多くは出生と死亡数の差異によって左右される。我が国の年間死亡数が出生数を100万人も上回るといった由々しき実態。自然災害や疫病、それに戦災といった人為的なものを除けば、これ程の急減は歴史的にも前列がない。

 東京だって然り。昨年の出生数72,965人に対して死者数は116,822人と、その差(死者数ー出生数=自然減)は43,857人まで膨らんでいる。そして数年後には転入数をも上回って完全な人口減少社会に突入する。それも急速に拡大しつつ。世界の主要都市の中でも東京の高齢者(311万人)の多さは桁違いであることから、一旦減少に転ずれば、もう収拾がつかない。こちらの方が大問題なのだが。

 一昨年、7万237人(昨年推計では9万632人)増えた東京の人口も、昭和30年代には年間30万人は増加していた。増加率は5%に達した。それが今、増加数は約5分の1であり、増減率たるや10分の1(0.5%)にも満たない。社会を維持する上で適正な人口増加率は約1%とされる。ならば一極集中どころではない。人口を維持する上での適正値さえ下回る危険水域でもあるのだ。

 長年に渡り、ヒト、モノ、カネを独り占めした東京に忍び寄る影。コロナ狂奏曲による事態の悪化が先行きをより不透明にさせた。リモートワークが働き方そのものを変えた。何せ、一極集中とは名ばかりで、この1年間に7万人しか増えていないのだ。人が集まれば、それを支える人材も増えねばならない。サービス業だけではない。その影響は全方位に及ぶ。もし大規模災害にでも遭えば一溜まりもあるまい。

〈東京都の将来推計人口〉
〈東京都より〉

❋(東京都もあと数年で人口急減の社会に)

 2012年から減少に転じた日本の人口は、その幅を100万、150万へと拡大しつつ、今世紀の半ばから後半には全自治体の3割が消える運命にある。地方だけではない。あと数年もすれば東京も仲間入りする。そして雪だるま式に拡大しつつ、やがては日本全土が消滅の危機に直面してゆく。

 ことに労働力不足による影響は計り知れない。多くの現場から外国人が消える。就労の拡大も、あくまで“臨時雇い”だけに、アジアでも下位に沈む国まではやって来ないのだ。一部、IT業界だけは、インド人留学生に支度金300万円を出す動きはあるものの、これとてどうなることやら。欧米だけではない。中韓や中東諸国でさえ、インド人(IT技術者)には10万ドル(1500万円)以上を約束しているのだから。

〈空き家の推移〉

(総理府統計局データより)

 空き家問題も深刻になるばかり。現在の900万戸ですら収拾が付かぬままに、2030年代には全国で、2050万戸にまで拡大すると予測されている。これは全棟数の3分の1に相当する。単身や子供のいない貧困層の住まいは集合住宅だけではない。東京では戸建てにも38万世帯が居住している。何れ誕生するであろう廃屋銀座の景観は軍艦島どころではない。数が数だけに空き家問題は地方より東京の方が遥かに深刻ということだ。

《東京都の人口ピラミッド》

〈総務省2025より〉

❋(一極集中とはいえ健全な人口構成には程遠い)

 日本創成会議は消滅が疑われる全国の896自治体を公表した。東京は奥多摩や島嶼部に混じって豊島区だけが入った。だが安心は出来ない。都内の宅地は家屋の建て替えさえ難しい狭小地が大半を占める。一部の再開発対象区域を除けば無価値な土地ばかりなのだ。これは地方より東京の方が遥かに深刻であることを物語っている。そう、一極集中で無縁と思われた東京が、いの一番で限界集落に成りかねないのだ。

 評論家は「人口減少下の経済成長」に自信を示す。そして「AIが解決する」に終始する。人工知能とて瞬時に社会の隅々まで行き渡るわけではない、まだまだ時間を要する。必要なの今現在なのに。ことに高齢者で溢れるであろう東京はそうだ。だが、こうした楽観論を述べるのは、政治家にしろ評論家にせよ高齢者ばかりだ。自らの存命中には無関係であるが故の戯言なら、それこそ無責任であり、戦犯でしかないと思うが。