あるところに何でもかんでも逆さまの『さかさかの国』が栄えていました。人々は、地上ではなく地下に住み、頭を地殻の方に向けて立っていました。それは、地上の人が鏡の上に立ち、足下に写る自分自身の姿を覗いているのと同じことです。太陽の光も地上のそれではないのですが、地核から発せられるエネルギーは太陽そのものでした。
(さかさ富士)
勿論、ここには海も山も空もあります。大空を飛び交う動物に、野山を走り回る深海魚の群れ。海の中では小鳥達が楽しそうに泳いでいました。人々は皆、晩から朝まで仕事に追われ、それはもう忙しい毎日でした。
遊園地は、どこもかしこも、お年寄りで一杯。そうなんです。この国では先ず、お年寄りから産まれるのです。
「まあ~可愛いお年寄りだこと」「お爺ちゃん? お婆ちゃん??」
「お爺ちゃんよ」
こうした会話が至る所でかわされ、それはもう大切に大切に育てられていました。
しかし、こうした日常も長くは続かないものです。中高年になるや反抗期で、非行にいじめ、校内暴力と、問題山積なのです。取り分け頭痛の種は増える一方の低齢者対策でした。このまま幼児、赤ん坊が増え続けたのでは福祉予算が足りません。老人組にとって若者は厄介者でしかなく早め早めに追い出そうとしていました。
巷からは、「これ以上、乳幼児が増えたのでは、この国は破綻してしまう」や「生涯労働を義務付け、若齢年金を廃止しろ」といった声が湧き上がりました。何せ、年寄り1人で若者3人を支えねばならない、とても歪んだ社会なのですから。
ある日のことです。史上初の老人世代選出でもある時の宰相から思いもよらぬ提案がなされました。
「噂では、この大地の裏側には、我々の知らない『少子高齢化』で『老人ばかり』の国があるというではないか」「この際、その国から、一人でも多くの老人を迎え入れたいのだが・・」
誰もが耳を疑いました。それでも背に腹は代えられません。生き延びることで必死なのです。こうして沢山の老人が大地の裏側からやって来ました。
でも不思議なことが。老さ溢れて元気ハツラツかと思いきや足元もおぼつかない者ばかりなのです。ヨタヨタぶりたるや、どこから見ても赤ん坊そのものではありませんか。
ここで初めて地下と地上では全てが真逆であることに気付きました。仕方なく、連れてきた老人は全て元の世界に戻したものの、ついでに赤ん坊まで背負わして送り返してしまったからさあ大変。健全さを取り戻した地下に反して、地上では、老いも若きも物忘れ症候群とヨレヨレ菌の蔓延で、もう収拾が付きません。地上では誰もが要介護マックスの状態なんですから。
月日が経ちました。どんな『裏技』を使ったのでしょう。誰もいなくなった地上にも少しずつ人の気配が戻っていました。
そして・・・
「オギャー、オギャー」
ではなく・・・
「フニャ~、フニャ~、ヨッコラショ!」
「・・・・👶」
「あ~ら、しわくちゃでとても可愛いお年寄りだこと」
「やはり、お婆ちゃんかしら??」
「いないいない婆~🤗」
こうして、地下は『少老低齢化』、地上は『少子高齢化』を晴れて脱出したそうな。
「メデたし、メデたし」
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《Back to the Future》
トランプの復権で、これまでの取り組みが尽くひっくり返ってしまった。世界保健機関(WHO)からは脱退 し、「パリ協定」からも離脱である。正に『地球温暖化など非科学的なデマ』とする大魔王の本領発揮といったところか。何せ『化石燃料は掘り放題、使い放題』を旨とするのだから、これでは堪ったものではない。太陽系にまで影響を及ぼしかねない問題である以上、アテンの神も戦々恐々ではなかろうか。
それだけではない。エネルギーの非常事態宣言によって電気自動車(EV)の普及策は廃案に。世界の趨勢でもある『DEI/多様性・公平性・包摂性』の取り組みまで終了してしまった。こうした大統領令や覚え書きへの署名は100件を下らないというから凄まじい。一夜にして『さかさかの国』誕生の様相である。
これで日本は大丈夫だろうか。そもそも我が国の対米外交は「御意」一辺倒であった。唯一の被爆国でありながら核拡散防止条約からも離脱しているように、あくまで主君はアメリカであり、その意向には逆らえないのだ。農産物交渉だけでない。1980から90年代にかけての日米半導体交渉などは最たるものであろう。結果として多くの基幹産業が壊滅的な打撃を被り、そのシェアを中韓などの新興国に奪われてしまったのは言うまでもない。
この先、日本も追随して、WHOから脱退、パリ協定からも離脱なんてことにはならないだろうか。多様性など認められない社会への回帰だってあるかも知れない。日米首脳会談を前に「石破総理はゴルフが出来ないから心配だ」といったように『ゴマすり力』の有無で一喜一憂するお国柄でもある。もしや「ニッポンはアメリカの51番目の州になるべきだ」にさえ『御意』で一件落着なーんてことも。情けない話ではあるが。