世界に類を見ない高齢化社会にあって増え続ける高齢者と減る一方の若者との乖離は日増しに大きくなるばかりにある。その影響は青少年だけではない。子供達にも及んでいるのだ。
【止まらない“ヤングケアラー”の低年齢化】
政府の調査『家族の介護や世話をする18歳未満の子ども(ヤングケアラー)について』によると、その低年齢化は一段と進み、小学6年生でさえ6・5%(約15人に1人)が「世話をしている家族がいる」といった実態が明らかになった。しかもこれとて序章に過ぎない。まだまだ拡大しそうな気配にある。
2020年度に実施した中高生(各2年生)の調査では、公立中の5・7%、公立高(夜間除く)の4・1%だったことから、、これをも上回ったことになる。児童がケアする相手(複数回答)は、兄弟(71・0%)が最も多く、母親(19・8%)、父親(13・2%)、祖母(10・3%)、祖父(5・5%)の順である。
「団塊の世代」と呼ばれる1947~49年生まれを含む75歳以上の人口は71万人増の2076万人。80歳以上だけでも31万人増の1290万人に達し、これは全人口の約一割に相当する。氷解の如くにある出生数に反して拡大する高齢者人口。団塊世代が80代を迎える2030年頃には介護対象の高齢者だけでも1000万人に達するかも知れない。
【そして主役は“チャイルドケアラー”へ】
問題は誰が看るかだ。両親ならその子供達が責任を負わねばならない。祖父母の場合はどうか。親が介護専念では働き手を失う。収入が途絶えてしまう。これでは食うことさえ出来ない。そこで介護は年少者へと委ねられてゆく。成人ならいい。中高生、いや現状は小学生にまで頼わざるを得ない状況に追い詰められているのだ。それも(ケアを求められるのは)弟や妹ではない。祖父母や曾祖父母といった高齢者を対象にして。
10年程前、総務省(2012年)の「就業構造基本調査」によると、介護をしている15~29歳の若者は約17万7,600人だった。これは同年代人口の約1%に相当し、百人に一人が学業や仕事を犠牲にして介護に負われていたことになる。それがどうだ。この十年での激増ぶりたるや尋常ではない。小学生でさえ15人に一人が該当するなんて誰が想像しただろうか。しかもこれとて序章に過ぎない。高齢化のピークは2030年代( の前半)にある。このままだと子供達の多くがチャイルドケアラーを余儀なくされてしまうだろう。
〈子供の割合推移〉
(この内、どれだけが介護を強いられる運命にあるのだろうか)
ランドセルの似合う幼い子供が学校にも行かずに祖父母の介護を担っている姿を思い浮かべて頂きたい。あの『おしん(の時代)』も大変だったが、あくまで子守りであり、高齢者の下の世話をさせられたといった話までは聞かない。小さな体で自分の数倍もある大人を看ることがどれだけ大変なことか。
介護施設はあるものの誰でも入れる訳ではない。ことに介護保険での即入所は不可能に近い。大都市圏なら5年も10年も待たねばならない。高齢化社会は、あと数年でピークを迎える。この先、更なる長期待ちが確実な状況にある以上、存命中に入ることさえ難しくなるのだ。
晩婚化が顕著な昨今、30代後半から40代での初産も珍しくない。すると、80代で初孫、90歳になって、やっと(その子は)小学生の高学年である。こうして介護は、高校、中学、そして小学生の役割へと委ねられてゆく。
〈単身者(世帯)数の推移)
(男性)
単身者ならこうもいかない。あと十数年で、2人に一人が独り身の時代がやってくる。そして最期を迎える。家族はいない。身寄りもない。施設に入ろうにも『単身』が妨げとなる。保証人のいない高齢者は受け入れてくれない。有事の際に引き受け手がないと困るのだろう。金銭的問題もある。こうして、余程の資産家を除き、行き場を失った高齢者で溢れる暗澹とした社会が到来する。
高齢者の選別(序列)も進む。公的施設は取りっぱぐれのない生活保護受給者を優先し、一部の有料ホームは総資産5億円以上を入所時の最低条件とする。これではいつまでも経っても入れない。単身高齢者だけではない。家族がいても難しい。政府は、末期にある患者同様に、介護でも『最期は自宅で』を推奨する。これは「家族が介護出来る環境にある」と見なされれば「小学生でも介護義務を負う」ことを意味する。
〈総じて低い我が国の賃金構造の中でも介護の分野は突出して低い。諸外国は一般職より介護職を優遇する傾向にある。これでは、日本人の海外流出が相次ぎ、この国から介護士そのものがいなくなってしまうだろう〉
増え続ける高齢者に減るばかりの子供達。介護士は足りない。外国人で補おうにも今や日本は豊かではない。報酬たるや欧米の比ではない。韓国にだって遠く及ばない。中国(の都市部)でさえ月収は40万円を下らないそうだ。これでどうして日本に来ようか。日本人介護士のスキルは高い。実直さからも世界各国から引く手あまたにある。これでは外国人云々の前に日本人の海外流出で高齢者福祉事業そのものが崩壊してしまう。家族はいない。いても小学生に頼らざるを得ないような悲しき日本の介護事情。もう残された時間は僅かしかない。この国は本当に大丈夫だろうか。
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《補足》
先日(1月20日)のNHKニュースによると、2024年に介護事業者が休業や廃業などした件数は600件を超え、これは調査開始以降で最も多いとのこと。要因は、コロナ禍での利用控えや物価高騰に加えて、『介護職員の不足で事業が続けられない』にあるようだ。介護施設が利用できないなら、やはり『チャイルドケアラー』に頼る社会が現実になるのではなかろうか。実に悲しい話ではあるが。
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【ケアハウス、猫の手】
〈窮鼠猫をCOME〉
「そんなに人手が足りないならオイラを使ってくれんかニャ~」
「・・・・・・😩」