開幕直前にしてどこか盛り上がりを欠くパリ五輪。とはいえフランスのことではない。日本国内での話だ。2021年の東京大会から間がない、といった事情もあるだろう。だが開幕まで、あと一ヶ月だというのに、この閑散とした雰囲気はなんだろう。スポーツニュースは、1に大谷、2、3がなくて、また大谷と続く。やっと取り上げたかと思いきや球技ばかり。個人種目など蚊帳の外の様相である。それもパラ競技の後塵を拝しているではないか。
パラスポーツをどうこう言うのではない。各メディア共に、十数年前までは話題にもしなかったのが、この豹変ぶりである。NHKのスポーツニュースにしても然り。先ずは「パラリンピック」から始まることが多い。これでは世界に誇るトップアスリートでもある北口榛花(陸上やり投げ)や藤波朱理(レスリング)でさえ霞んでしまう。期待値だけでなく競技人口の上でも雲泥の差にあるのに。
障害者の努力たるや想像を絶するものであろうことは理解できる。福祉後進国ニッポンで障害者(スポーツ)を認知させる上でも大いに役立つだろう。たが、血の滲むような努力をして五輪の舞台に立つのは、どのアスリートでも一緒だ。ならば、一般競技も、これまで通りに取り上げて欲しいものだが。
また、大きく変わったのは、こうした報道だけではない。メダル争いにしてもそうだ。『参加することに意義がある』も遠い昔。今や国威発揚の場以外の何ものでもない。だから各国共に優勝(金メダル)を競う。だが日本は違う。この数年で大きく変わってしまった。それも、2020年(実際は2021年)の東京大会を前にして・・。一体、何があったのだろうか。
毎度のことながら、オリンピックが近付くにつれ『メダル獲得予想』を繰り広げる日本の報道各社。それも最近は優勝争いではない。金銀銅の総数で評価する動きにある。でも世界はどうか。各国共に、メダル総数では評価しない。ランキングは全て金メダルの数で決まる。日本でも同じだったはずだが、いつから“総数”になったのだろうか。あの『ロンドン大会(2012年)』からではなかろうか。
それまでは日本も、オリンピックに於ける成績の評価基準は金メダル一辺倒であった。金メダルの数で一喜一憂していた。それが2012年のロンドン大会で一変する。何せ金メダルは目標に大きく届かず7個しか獲れない。アテネ(2004年)16個、北京(2008年)9個、そしてロンドン(2012年)7個と大会毎に下がり続けた。
過去の大会と比べて少な過ぎる。ロンドン大会の金7個は1964年の東京大会以降でワースト5に入る異常事態である。2020年には東京が立候補しているのに、これではまずい。やっと盛り上がってきた招致活動にも水を差しかねない。なにか妙案はないだろうか。こうして目眩ましのメダル総数に切り替え、金銀銅計『38個』を前面に、銀座で大規模な戦勝パレードを敢行したのは言うまでもない。
〈ロンドン五輪後の戦勝パレード〉
〈こうして低迷気味の五輪招致ムードも最高潮に〉
こうした甲斐あってか都民の圧倒的指示(約80%)を得た東京都はオリンピックの招致に成功。しかしまだ物足りなさは否めなない。ロンドン大会以降、リオ五輪に向けて日本選手団には緻密なメダル獲得作戦が練られた。次の2020年は東京で五輪が開催される。金メダルの獲得目標は世界で第4位だ。競技数が増えることから恐らく30個前後の争いになるだろう。そのためにもリオで17個以上の金メダルを獲得せねばならない。結果はどうだったか。
英国はリオ(大会)で27個の金メダル(他に銀17銅13=67)を獲得した。ドーピング違反で出場停止処分が相次いだロシアはともかく、なんと、中国や独仏といったスポーツ大国を押し退けて世界第2位への大躍進である。理由は強化した自国開催(2012年)の遺産に他ならない。北京大会で飛躍し、ロンドン大会(金29個)で頂点を迎えていた。その成果が引き継がれていたということだ。
日本だって負けてはいられない。強化費も相応に配分されている。その成果なのか、リオでの金メダルは12個にまで増産したが、これとて戦前の目標からすれば惨敗である。だが、ここでも『総数』が項を奏した。銀8に銅21を加えれば総数では41個にもなるのだ。もう恐れるものは何もない。マスコミ各社共に『史上最多のメダル獲得』と大々的に報じたこともあって『日本列島を歓喜の渦に巻き込んで終えたリオ五輪』となった。
総数に異を唱えるつもりはない。選手の日々の努力からすれば称えられて当然であろう。結果、迎えた東京五輪は、金メダル(27個)こそ目標の30個に届かなかったものの、銀14、銅17と合わせて計58個のメダルを獲得し『大成功の東京五輪』として幕を閉じる。コロナ渦もあって開催に賛成から反対に転じる者も多く、こうした反対派を抑える意味でも有効だったようだ。何せ、大会前には「中止&再延期」が48%だったのに、大会後は「やって良かった」が90%以上に跳ね上がったのだから、これぞ『メダル総数効果』ともいうべきか。
来月の26日からはパリ大会が始まる。強化費もこれまでのようにはいかない。大幅に削減されてしまった。強化費だけではない。一部、遠征費までが自己負担と聞く。これでは東京大会でメダル量産の柔道やレスリングでさえ前回のようにいくとは限らない。大橋悠依の頑張りもあり、なんとか金2個を獲得して面目を保った水泳も、メダルに届くか否か。お家芸の体操だって不確実な要素が多い。これだと近い将来、更なる奥の手を繰り出し、「日本選手団大健闘、○○種目で8位入賞の快挙」なーんてハードルを下げることになるのだろうか。寂しい話ではあるが。