◇一人で6人の介護が義務づけられる日◇


 大盤振る舞いにも思える賃上げと、その根底にある人手不足。史上最高値を付けた株価も、一過性なのかそうでないのか、まだまだ予断を許さない。中国から忍び寄るバブル崩壊の足音に続いて、トランプ爆弾も破壊力を増すばかりにある。こうした中でも心配なのは福祉の分野だろうか。何せ少子高齢化で財源が足りない。株式に託した運用資金も成り行きによっては消え失せてしまう。とりわけ人手不足と財源難の板挟みにある介護業界は大変であろう。リーマンショックから失業で溢れた時代でさえ人手不足は深刻だったのだ。この先、老人介護は、どうなってゆくのだろうか。


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(1989年以降、約1/6にまで急降下した東証株価)

 リーマンショックでは平均株価も瞬く間に6000円台にまで急落。景気低迷から企業倒産が相次ぎ街中は失業者で溢れていった。


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 中国は一人っ子政策を廃止した。理由は言うまでもない。少子高齢化対策だが、まだ大きな課題を残す。高齢者の介護である。一人っ子は4、2、1の縮小均衡を意味する。4は祖父母、2は両親だが、このままではいずれ一人で6人の老後を看なくてはならない。当初の約束、「国が一切の責任を負う」も、今や反故に等しい。一人っ子政策の中身は怪しいとはいえ、景気後退よりも、こちらの方が遥かに深刻なのだ。

 中国はまだいい。高齢化は進んだものの人口ピラミッドの上では修復可能な形状に近い。加えて、不安定要素とはいえ、幽霊チルドレン(1300万人とされる無籍の子供たち)も数多くいる。一世代で回復しうる十分な下地がある。だが日本は違う。絶対に回復しない。沖縄を除けば、合計特殊出生率の目標値は、最大でも1.80しか見込んでいない。これでどうして少子高齢化を乗り切れようか。

 厄介払いで高齢者の地方移住を促すものの、貧困者や既症者、ことに全体の3割を占める単身貧困層には一切触れない。これらが移住したところで医療や介護の不備を理由に結局は元の世界に追い返されてしまうだろう。地方財政は日々厳しさを増す。商売に結び付かない粗悪品はいらない。不良品は即返品ということだ。

 医療や介護の分野も同じだ。度々の制度改正で運営すら難しくなる。そこで「入院には厳しく退院は早めに」が常態化する。「最期は自宅で」を徹底して推し進める。「最期は自宅で」なんて少数派に過ぎない。家族だって不馴れな介助で苦しめたくない。それを全員が望んでいる如くにマスコミ挙って宣伝する。単に経費の削減であって合理化の一環ではないのか。

 介護現場では自立を主目的とする。これ自体は当然で素晴らしいこととはいえ、これも本音は少し違う。儲からない商品の排除に他ならない。6000万人の介護予備軍は如何ともし難い。介護しようにも絶望的な数字なのだ。今でも滞在型の入所待ち5年はざらだが、この先、デイサービスでも同じ状況になるだろ


 現在(2024年2月1日推計)10才未満に約884万人、10代に約1074万人、20代に約1265万人と、合わせて約3223万人が存在するが、これらが支える介護対象者は6000万人を超える。これは一人が二人を支えることでもある。だが実際はもっと多い。あくまで平均であり、一人っ子なら、6人介護に変わりはない。さらには家族の病気療養だってある。これは年齢を問わない。


 国は、この先、老人や病気療養中の面倒は家族に任せたいようだが、どうも腑に落ちない。財源難は仕方ない。でも、どうすれば一人で5人も6人も支えられようか。夫婦でなら、双方の祖父母、両親を加えこの倍になる。さらに病人でも出ようものなら堪ったものではない。


〈労働力の供給源も今は昔〉

(3月16日付、日経紙より)

(この先、外国人に期待する前に、日本人の海外流出が加速する。最早、我が国の人材不足は壊滅的状況にあるといっても過言ではない)


 施設と介護士不足は日々深刻を極める。介護職員は120万人、100万人、そして80万人と際限なく減り続ける。薄給かつ排他的領域には外国人だって寄り付かない。有識者会議では「地方には、まだ高齢者を受け入れる余裕があり、雇用促進にも結び付く」とするが、とんでもない。地方ほど先行きは苦しい。「雇用促進にも結び付く」も、どれだけの若者が薄給での“苦行”を求めて田舎に移り住もうか。


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 〈介護士不足の実態〉

(厚労省データより)


 関係機関は、2025年の介護士不足を32万人と予測する。だが、これも有資格者と外国人の雇用拡大に期待した楽観的数値であり、実際はこんなものでは済むまい。


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 保険対応の施設入所には10年から15年も待たねばならない。それも財源があっての話だ。財政破綻なら全額自己負担が基本となる。有料老人ホームなら莫大な入居金の他に年間一千万円は覚悟せねばならない。これでは終生入れない。行政の支援にも限界がある以上、必然的に身内への押し付けが始まる。両親や祖父母ならまだいい。少子化は子供のいない家庭を多く生み出してしまった。ならば叔父叔母までが対象に加わるだろう。見たことも会ったこともない親族の介護まで義務付けられるのだ。

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 202X年、新たな介護基本(近親者介護)法が制定され、三親等までが全ての老後責任を負うことになった。狭い室内は親族の高齢者で溢れた。仕事どころではない。若夫婦は子作りさえ出来ない。拒否すれば一人あたり10万円の違約金を支払わねばならない。若者は、こうした社会に見切りを付け一斉に海外へと脱出。国力の衰退著しく、この国は従来の予測より300年も早く、今世紀半ばにも消滅の危機を迎えることになる。


 これは物語ではない。今まさに進行する現実でもある。我が国には認知症だけでも964万人がいる。2030年代には1500万人を超える。徘徊中の列車事故では家族の監督義務を巡って裁判になったが、司法の判決がどうであれ、いずれ身内が全責任を負う日がやってくる。さあどうしよう。決して他人事ではないのだから。


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《🦩は○年、🐢は○年》



「これで万年も生きたらどうなるんかいな」

「親亀、子亀、孫亀、曾孫亀、玄孫亀、来孫亀、昆孫亀、仍孫亀、雲孫亀・・」

「ありゃー、オイラ一人で1024匹もの老亀を看ないといけないとは」

「トホホ😩」