この季節、箱根駅伝が終わるや、マラソン一色に染まる日本列島。あたかも世界をリードするマラソン王国のようでもある。だがちょっと待って欲しい。一体、日本の実力は、どの辺にあるのだろう。本当に人気に相応しいレベルにあるのだろうか。マラソンだけを取り上げ、暑い暑いと夏の開催に異を唱えた東京大会から3年。最高気温で見る限り、パリの方が東京より遥かに暑いのに、もう気温のことなど忘れてしまって「メダルメダル」と大騒ぎなのだが。

《東京の最高気温は2004年7月の39.5℃。パリは2019年7月に42.6℃を観測している。なのに今回は「パリは暑いから大変」といった話をあまり聞かない。そもそもパリは歴史的建造物で溢れる。暑さ対策と称して手を加えることなど絶対に許されないのだ》

 パリ五輪の最後の一枠を掛けた東京マラソンがこの3日に行われた。結果は、ケニアのキプルトが世界歴代5位に相当する、2時間02分16秒の好記録で優勝。日本人トップは、9位に入った西山雄介の2時間6分31秒だったが設定タイムには届かず、MGC3位の大迫傑が代表に決まった。女子(選考対象外)は、ケベテ(エチオピア)が2時間15分55秒で優勝。日本人は新谷仁美の2時間21分51秒(6位)が最上位だった。

 先ずは、日本記録(男子)の変遷と、その間の世界記録を見比べていただきたい。

 《世界記録と比較した日本記録の変遷》
(画像はネット/東京新聞から借用)

 これまで35人が日本記録を達成。第一号は1920年、後藤長一の出した2時間57分01秒だが、その後は下記の通りである。

――中略――

☆1935年、各、3月、4月、11月達成
鈴木房重、日本大学、2.27.49(世界最高)
池永康雄、東洋大学、2.26.44(世界最高)
孫 基禎、養正商高、2.26.42(世界最高)
――中略――
☆1963年、寺沢徹、倉敷レーヨン、2.15.15(世界最高記録)
――中略――
☆1965年、重松森雄、福岡大、2.12.00
(世界最高記録)
☆1967年、佐々木清一郎、九電工、2.11.17
☆1970年、宇佐美彰郎、桜門陸上会、2.10.37
☆1978年、宗 茂、旭化成、2.09.05
☆1983年、瀬古利彦、エスビー食品、2.08.38
☆1985年、中山竹通、ダイエー、2.08.15
☆1986年、児玉泰介、旭化成、2.07.35
☆1999年、犬伏孝行、大塚製薬、2.06.57
☆2000年、藤田敦史、富士通、2.06.51
☆2002年、高岡寿成、カネボウ、2.06.16
☆2018年、設楽悠太、ホンダ、2.06.11
☆2018年、大迫傑、ナイキOP、2.05.50
☆2020年、大迫傑、ナイキOP、2.05.29
☆2021年、鈴木 健吾、富士通、2.04.56

《これを世界ランキングと比較してみよう》

(01)2:00:35、キプタム 、ケニア、2023/10/08 
(02)2:01:09、キプチョゲ ケニア、2022/09/25 
(03)2:01:41、ベケレ 、エチオピア 、2019/09/29 
(04)2:01:48、シサイ・レマ 、エチオピア、2023/12/03
(05)2:02:16、キプルト 、ケニア、2024/03/03 
(06)2:02:48、レゲセ 、エチオピア、2019/09/29 
(07)2:02:55、ゲレメウ、エチオピア、2019/04/28 
(07)2:02:55 、キプラガト、ケニア、2024/03/03 
(09)2:02:57、キメット 、ケニア、2014/09/28 
(10)2:03:00、チェベト、ケニア 、2020/12/06
(10)2:03:00、カブリエル、タンザニア、2022/12/04
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(89)2:04:56、鈴木健吾、2021/02/27

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 このように鈴木健吾の日本最高記録ですら世界ランクは89位に過ぎない。これは他の(陸上)種目と比較しても(ランク的には)極めて低いレベルにある。高岡寿成(の日本記録)以降、長きに渡る低迷が世界との差を更に大きくしてしまったようだ。この間に世界は、いつ2時間を切ってもおかしくないレベルにまで到達しているのだから。

 こうした理由には、いつだってお決まりの言い訳が用意されている。アフリカ勢の台頭、シューズ革命など多々あれど、それだけではない。先ずは暑さで、そして寒さである。理想的な条件(気温10度、無風)にはなかったというのだ。しかし今では、それも虚しく聞こえる。1984年のロサンゼルス五輪では、ロペスが30度を超える猛暑の中、2時間10分を切る好タイムで走り、2008年の北京五輪では、大気汚染と40度に迫る苛酷な条件の下で、ワンジルが2時間6分32秒という驚異的なオリンピック新記録で金メダルを獲得。日本人でも高橋尚子は、1998年のバンコク・アジア大会で、気温35度の中、当時の世界最高記録まで約1分に迫る2時間21分47秒の日本最高記録で優勝している。高温とはいえ、冬から春にかけて行われる日本の大会とは、苛酷さがまるで違う。

 駅伝の弊害とする嘆き節も然りだ。確かに走り過ぎは良くない。だが、駅伝がなければ日本の長距離走は、どうなっていたやら。駅伝があるから陸上を始める者も多い。箱根駅伝に憧れて大学に入る。そして実業団に誘われて生活も安定する。最初からマラソン志望では食えない。かつて「頼むからオリンピックだけは目指さないでおくれ!」と母親に泣きつかれたトップアスリートの逸話があるように、走るだけの競技とはいえ、トレーニングや遠征に要する費用だってばかにはならない。親族の家計まで圧迫してしまう。だからこそ、上記通り歴代の有力ランナーも、ほぼ全員が駅伝育ちなのだ。

 陸上競技でも他の種目は、参加標準記録を突破した者に限られるため、日本人が誰一人として出場出来ない種目も数多い。水泳に至っては更に厳しく、参加標準記録を突破して、尚且つ一発勝負の日本選手権で2位以内に入らねばならない。それにひきかえマラソンは・・。3人の出場枠が有るとはいえ、2時間5分50秒とした派遣設定タイムは、一体、何だったのか。トラックやフィールド競技なら、例外的な国別枠を除き、設定記録に届かなければ選考の対象にすらならないのに。

 五輪や世界選手権の予選では、あと1秒、あと1センチ足りずに涙を飲んだ者が、どれだけいたことか。勝ち目のない種目に3人も出場させることに、どんな意味があるのだろうか。なにか釈然としない。この際、参加は(国別枠に従い)一人だけで十分ではなかろうか。マラソン好きな国民性からして大騒ぎするのは仕方ないにせよ、どうして世界をリードする(レベルにある)競歩は話題にもならないのか。マラソンとて(32競技)329種目の一つに過ぎない。オリンピックは参加することに意義があるとはいえ、これではいつまで経っても強くならないと思うが。

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《折りガメ》

 〈カメ(く)んの告白/三島由紀夫〉

「日本代表に相応しいのはオイラでないかい」

「何せ、ラビット🐰より速いんじゃからな」

「ん? これってブタ🐷にしか見えんがのう」

「😜・・トンだ失礼!」