訪日観光客が急回復している。東京や大阪といった都市部、それに京都や奈良のような観光地では予約すら取れない。観光立国を目指し、2020年の東京オリンピックをメドに年間4000万人を目指したものの、あのコロナ騒ぎで途絶えていたのが嘘のようである。疲弊する経済の建て直しには有効かも知れない。だが、これで大丈夫なのだろうか。人手は足りない。かといって省力化も進まない。また大挙して押し寄せそうな“あの国”が控えているのに。
*〈JNTOの推計によると2023年10月の訪日外客数は2,516,500人(2019年比+0.8%)で、コロナ禍以降初めて、2019年同月を超えた〉
コロナ前(2019年/上半期)で見る限り韓国からが一番であった。年換算(人口比)では、6人に1人が来日したのに等しいことになる。しかし、金額では中国が断トツで、韓国の3578億円を大きく上回る1兆4574億円にも達した。一時の爆買いは鳴りを潜めたにせよ一人当たりでは韓国の4倍にも相当するのだ。
韓国が6人に1人なら、中国はまだ200人に1人に過ぎない。この分(成長)だと、あと十年もすれば(一人当たりのGDPでも)日本に肩を並べる。目標値(4000万人)など、30人に1人の来日で達成してしまうのだ。政府や観光業界からすれば、神様、仏様、中国人様、といったところか。
少し前、アジア係外国人は、あまり歓迎される存在ではなかった。高級ホテルやレストランでは、ドアを開けるや否や頭から足元までチェックされ、平身低頭で迎えられる欧米人とは明ら かに違っていた。ことに留学生は深刻で、アパートを借りるのも大変だった。それが今、アルバイトに精を出す日本人学生を横目に高級マンションに住み、マイカーでの通学族まで急増というから驚くしかない。
中国人の話題は観光や買い物といった経済活動への貢献だけではない。マナーの悪さも浮き彫りになった。並ばない。ところ構わず大声を出す。噂に聞く行状は目を覆うばかりだ。云わば『御一行様、金は落とすが、ゴミも落とす』といったところか。だがこうした一面も・・。
十数年前、田舎の両親を連れて松島へ行った時のことだ。連休の只中だけに、人、人、人で溢れている。それも圧倒的に中国からではないか。足の悪いお袋がトイレだという。車椅子で向かうにも既に20人は並んでいる。仕方なく引き返そうとすると、どこからともなく聞き慣れない声が・・。その仕草から、どうやら「お先にどうぞ!」と言っているらしい。
ひとり前へ進む。するとどうだ。次々と声が掛かり始めた。あっという間に先頭までたどり辿り着き難なく用を済ませてしまった。しかも帰り際には全員笑顔での見送りである。
現在の社会、困った者を見たところで、どこもかしこも『知らぬ存ぜぬ』が多数を占める。関わりたくないのだろう。格差社会で、肩書きと外見でのみ判断するような世相にあって、近頃では薄れてしまった光景がそこにはあった。あの時の思いは今だに忘れられない。一体、どちらが本当の中国人なのだろうか。
数年前までは日本人も同じだった。絶対に並ばない。トイレだけではない。公衆電話も早い者勝ちだ。並んでも其々の前に立ち、ドアを叩いて我れ先を競った。手前で一列に並ぶようになったのもつい最近のことでしかない。平成の半ば、金融機関のATMが、その前例を作ってからではなかろうか。
公共交通機関に乗るのも大変だった。後ろにいてはいつまでたっても乗れない。遅刻してしまう。遠慮はいらない。到着するや一斉にドアを目指して殺到していた。途中下車を助ける作業だって一苦労だ。「降りまーす」の声に押し出された結果、ホームに取り残されて、どれだけ遅刻したことか。
通勤電車はまだいい。長距離列車はもっと酷い状態にあった。まだ名残はあるが各ターミナルには哀愁ならね悪臭列車が次々と到着。何せゴミを持ち帰る習慣なんてない。ゴミは“放置がマナー”だった。座席の下だけではない。通路から網棚までが駅弁の残飯(空箱)や空き缶、空き瓶、新聞に雑誌と、棄てられたゴミ、ゴミ、ゴミで溢れた。残汁が床を伝う。悪臭が漂う。車内はゴミの集積場に取って代わった。紙おむつまでが混じっていたことから、そんな昔ではない。今なら、放棄された介護用品で耐え難い悪臭が、、になるのだろうが・・。
でも、日本人のマナーって、いつの頃から誇れるようになったのだろうか。バブルの当時はそれはもう悲惨なものだった。そこには、スタジアムの清掃作業で称えられるような今日の姿は、どこにもない。欧米各国のメディアから報じられる内容も辛辣なものばかり。旅先では日本での“ルール”を守り、大声で話し、ステテコでホテルのロビーを闊歩し、豪華列車からオペラペハウスの座席の下にまでゴミを置き去りにして顰蹙を買っていたのを思い出す。これとてつい最近のことだ。偏見だけでは何も解決しない。誰だって学習する。そして成長する。我々だって、いつか来た道なのだから。



