一昨年だったろうか。三重大学医学部付属病院の元教授(臨床麻酔部長)が医療機器メーカーから200万円を不正に受け取ったとして逮捕された。京都大学でも医学部・附属病院の元准教授が収賄の容疑で検挙されるという事件があった。医療機器購入に便宜を計った見返りに数十万円相当の高級ブランド品を受けとったという。医師とはいえ国立大学なら純然たる公務員である。額には関係ない。紛れもなく犯罪であろう。
その昔、理想の結婚相手には、必ず『医者か弁護士』が登場した。ステータスの象徴だったのだろう。でも実際はどうか。最難関の国家資格であれ、その二割が非正規就労並みの年収で喘いているように、医師とて誰もがリッチな生活をしているわけではない。豪邸に住み、外出はフェラーリで、なんて、どれだけいようか。大半(勤務医の収入)は総合商社や都市銀行よりも遥かに少ない。公的機関なら尚更である。歯科従事者の生活苦が話題になるが今や医者とてステータスではない。全体の1/4が年収300万円に満たない歯科医ほどではないまでも、警察官(の給与)にも及ばない勤務医だって数多くいる。身近な医者も薄給を嘆くが、その多くは公立病院の医師だ。だからといって不正の理由にはなるまい。
〈参考=企業別年収ランキング〉
誰もが抱く疑問がある。それは入院や手術の度に担当医に渡す心付けのことだ。人は病になる。時として手術を要する。入院すれば金銭的な負担は大きい。一家の主なら尚更で、家計を圧迫し、将来への不安も付きまとう。こうした中でも悩みは心付けだ。苦しい家計の中から捻出しなくてはならない。義務はないが周りが渡す限り自分だけが無視することは出来ない。そこで、やっとの思いで工面し、そっと手渡すことになる。
しかし、こうした行為では断られたという話をあまり聞かない。勿論、公的な病院だって然りだ。形式的な押し問答はあるにせよ相当な確率で受け取っている。便宜を図る収賄とは意味が違うとはいえ紛れもなく公務員なのだ。これだって立派な賄賂であろうに。
では何故、見逃されているのだろうか。摘発されたケースを知らない。マスコミだって取り上げない。理由は単純で、いつ自分自身や家族が利害関係者になるか分からないからだ。医者だけは絶対に敵に回せないと言うことか。
でも、やっぱりおかしい。警察官は煙草の一箱で摘発され、公的な立場の医師は業者からの数十万円の贈り物で逮捕される。一方で患者からは貰い放題でも誰一人として異を唱えない。大きな手術では、業者からの賄賂以上の金品を受領しても、お咎めなど一切ない。しかも無税、いや脱税ではないか。年収1000万円未満の医者が、それ以上の収賄行為でさえ見逃されているのだ。
病院内での嫉妬や確執はどうなのか。命救急救命には縁のない話だ。麻酔科だって然り。命に向き合う最前線にあって、この違いは何なのだろう。謝礼は疎か感謝の言葉すら貰えない。同じく医療現場を支えていながら影の功労者には遠い世界なのだ。多少の手当てはあったににせよ“実質”年収たるや担当医の半分にも届くか否か。これで不平不満はないのだろうか。治外法権よろしく特定の医師だけには賄賂が容認されているのだから。
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今、医師不足が話題になるが、一方では医者余りも深刻になってきている。一部の大学(学部)では定員割れが経営を圧迫する事態に。廃業も相次ぐ。医者は神様ではない。先生でもない。渡した患者側だって『贈賄は罪』であることを忘れてはならない。お布施は無用ということだ。
◆〈とはいえ、心付けは賛成? 反対?? を問えば、どちらが上回るだろうか。〉
◆〈慣習であり「仕方ない」を含めれば賛成派が多数を占めるのではなかろうか。実働に見合わない報酬で奮闘する関係者には申し訳けない話題ではあるが・・〉
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