この数年、電子決済サービスを使い、銀行口座から預金が不正に引き出されるといったケースが相次いでいる。しかも、本人確認なしに口座を作れた、というから怖い。IT社会とはいえ、成り済ますことで、いとも簡単に騙し取れるということか。この成り済ましだが、途絶えることなく、相も変わらず蔓延っている古典的な手口をご存知だろうか。ロマンス詐欺、、そう『シンデレラ』を夢にした結婚詐欺のことである。

 人は騙されやすい。ことに“結婚”の二文字には弱いらしい。しかも、同じ特殊詐欺でも、オレオレ詐欺とは違って表に出ない(出さない)ケースも多いというから始末が悪い。恥ずかしいのか、まだ相手を信じたいのか、被害総額すら分からないのが実態のようだ。

 かつて、自らを、アメリカ空軍に属する『クヒオ大佐』と偽り、1970年代から90年にかけて騙し続けた結婚詐欺師がいた。映画にもなっていることから御存知の方も多いと思う。嘘で塗り固めたその経歴がまた凄い。

〈当時の映画ポスター〉
(主演は堺雅人)

〈半沢直樹もかつては詐欺師だった??〉

 ハワイで生まれ、父はカメハメハ大王の末裔で、母はエリザベス女王の双子の妹である。6才でワシントン大学を卒業し、10才で士官学校への入学資格を取得。その後、エール大学で弁護士、東大法学部大学院で法学博士号を得る。現職はアメリカ空軍特殊部隊のパイロットという筋書きだ。

 それだけではない。もし自分と結婚すれば、軍から5000万円の結納金が、イギリス王室からも5億円のお祝い金が出る。ウェディングドレスはダイアナ妃のドレスも手がけたデザイナーに依頼して製作してもらう等など、よくもまあーといった文言が並んでいる。

〈実際の素顔〉
(画像はネットから借用)

 誰が見ても怪しい。しかも、映画とは違って身長160cmにも満たない醜男だ。如何に玉の輿がブームの時代とはいえ、これでよく引っ掛かったものだと感心してしまう。やはり、高度成長期であり、バブルであり、誰もが羨むセレブな生活に憧れる社会背景があったのだろうか。

 一方、2008年にはこうした詐偽もあった。栃木県でのローカルニュースだが、年齢を偽って結婚を餌に男性から100万円をだまし取り、茨城県桜川市の農業・〇〇ハツエ(69)が真岡署に逮捕された事件だ。

 調べでは、同居していた派遣社員の男性(49)宅で、「義兄がどうしても金が必要なので100万円ほど貸してほしい」と嘘を言い、借用書を書いた上で男性から現金をだまし取った疑い。

 この犯人、既婚者にも関わらず偽名を使い、「40代前半で独身」を装って結婚相談所に登録。 紹介された真岡市の男性と結納を交わして同居していた。男性は両親とも同居。その後、女性の年齢や言動に不自然さを覚え、調べたところ偽名や既婚であることが分かったという。

〈一般的に69歳は、こうした年齢かと〉
(本文とは関係ありません)

『菅井きんさんゴメンなさい・・😓』

 でも不思議なのは、なぜ最初から気付かなかったのだろうか。写真をお見せ出来ないのは残念だが、野良仕事で培った褐色肌とシワの数からして、どう見ても69才ではない。晩年のお袋より年上に見えたことから百歳と言われても仕方ない風貌なのだ。それが“40代前半”で堂々とまかり通るとは・・。相手やその家族、結婚相談所まで、どうしてすり抜けたのだろうか。

〈上昇の一途を辿る生涯未婚率〉
(内閣府調査より)

 人心ほど脆いものはない。己れの弱みに付け込まれると何も見えなくなってしまうのだろう。華麗なる一族への憧れに、そして後継者難に喘ぐ農業従事者の苦悩。非正規雇用の拡大から下がり続けた賃金と非婚(少子)化の波が、こうした傾向に一段と拍車をかける。でも後者の場合、どうみても跡継ぎが期待できる容姿(失敬)、いや年齢ではないのだが・・。

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 こうした詐欺の横行には、いつだって社会不安が背景にあるのを忘れてはならない。貧富の差が社会問題になる時代に限って多いのだ。だからこそ豊かで幸せな生活に憧れるのだろう。そして夢物語を絵に描いたような創作にさえ疑うことなく取り込まれてゆく。

〈今や韓国にも抜かれた我が国の賃貸水準〉
(OECDデータより)

 昨今の経済情勢は、コロナあり、ロシアによるウクライナ侵攻ありと、リーマンショック以来の危機的な状況にある。連日の物価上昇から生活は苦しくなるばかり。最早、オイルショックの比ではない。失業の増大は多くの貧困層を生む。シンデレラや白蛇伝を夢みて、なけなしの金を毟り取られる者が、また続出しなければ良いが・・。