今年のプロ野球は、セ・リーグがヤクルト、パ・リーグがオリックスの連覇で幕を閉じた。ことに、三冠王&56号の村上、2年連続投手4冠の山本など記録ずくめのシーズンでもあった。まだ、日本シリーズまでの道程が残されているものの、コロナ禍も癒えぬ中で全試合消化出来たこと自体、先ずは「メデタシ、メデタシ」といったところか。
(歓喜のオリックスバファローズ)
だが喜べない球団もある。読売ジャイアンツのことだ。戦前の予想に反して完膚なきまでに叩きのめされた成績だけではない。人気の上でも凋落著しいのだ。感染防止のために入場者数が制限されたとはいえ、その上限にも満たないシーズン中の寂しいスタンド。視聴率たるや二桁にも大きく届かず、ホームの東京(関東地区)ですら蚊帳の外の様相である。今や、親会社でもある日テレさえ中継(地上波)がなく、ラジオ(TBS)からも撤退されてしまった。巨人、大鵬、玉子焼きと持て囃され、全国を席巻したあの頃の人気は一体、どこへ行ってしまったのだろうか。
空前のプロ野球ブームに沸く昨今、カードによってはチケットの入手が困難な地域まである。視聴率たるや、広島、福岡、仙台、札幌など、天下分け目の決戦ともなれば、あの紅白歌合戦でさえ及ばない。こうした中、巨人だけは別格で、伝統の阪神戦ですら一桁半ばといった体たらくである。
〈セ・リーグ観客動員数2022〉
(巨人一人勝ちの時代も今は昔。観客数は阪神に大きく水をあけられ、東京ドームより遥かに器の小さな球場を本拠地とする広島や中日、DeNA、ヤクルトに猛追される悲しき現実)
理由はいろいろあるが、営業努力の怠慢に加えて、スキャンダルも尽きない。マスコミに大きく取り上げられるのは、賭博に女性問題、薬物疑惑と、野球以外での話題ばかり。原監督の醜聞が次々と発覚する中、今度は坂本勇人である。あの「紳士たれ」球団はどこへやら。長嶋茂雄でさえ倒れた現場は愛人宅だったと聞く。隠蔽されたものを含めれば、まだまだあるのではなかろうか
しかも、それだけではない。市場の変化が大きな影を落としている。
サッカーJリーグが誕生して以降、プロスポーツでは地域密着が浸透した。当然のことだが日本だけが立ち後れていた。欧州サッカーのみならず、大リーグでも試合の大半はホームタウンに限られる。それがプロ野球の巨人だけは違った。市場独占を目論み全国展開を企てた。全試合が全国ネットでテレビ中継された。だが、フランチャイズ(地域密着)の浸透が、それを変えた。度重なる不祥事の影響も加わり視聴率は急降下してゆく。
今や東京でさえ、ジャイアンツの野球帽なんて滅多に見ない。ダサさに敬遠するのか、恥ずかしいのか、野球観戦のスタジアムを除けば街中でYGマークの帽子を目にすることなど宝くじに当たるよりも難しい。たまにいるのは、酔っ払って路上を徘徊するオジサンくらいなもので、野球少年であれ所属チームのオリジナルや大リーグのキャップばかりだ。だが最近は少し様子が違う。楽天イーグルスの野球帽だけは見掛けるようになった。なぜだろうか。
東京は地方出身者が多い。それも圧倒的に東北地方からである。人口推移をみれば分かるが、終戦直後(1945年)の東北6県の総人口は824万人で現在の902万人と、あまり変わらない。理由は言うまでもない。就職に離農からの求職と様々だが首都圏(東京)への転出にある。
この間、日本の総人口は7199万人から1億2712万人と76%も増加している。同率の増加と仮定するなら、東北の人口は1450万人が妥当であり、548万人足りない。即ち、この内9割が首都圏への転出であり、約500万人が東北出身者と、その子息ということになる。
一方、東京の人口は、1945年の348万人から997万人も増え1345万人の大都会に変貌した。だが自然増ではない。地方からの転入に支えられたに過ぎない。県別では新潟が一番とはいえ総数では東北出身者が圧倒的多数を占める。だから首都東京は日本の中枢だが東北各県からの500万人が支配する東北文化圏でもあるのだ。
プロ野球の話題はカープ女子に代表される広島だけではない。マスコミの扱いでは楽天が露出度を増す。それも宮城ではなく関東地区に於いてだ。地域密着を掲げて人気急上昇の首都圏4球団ならいざ知らず東北の球団に対してである。やはり故郷球団への“回帰”にメディアが便乗しているとしか考えられない。
東京ドームでのソフトバンク戦では九州出身者のホークスファンで埋め尽くされる。日ハム戦なら北海道出身者が列をなす。楽天イーグルスは、その比ではない。この先、故郷回帰が進むなら、東京は楽天ファンに席巻されてしまうだろう。何せ、500万人が愛しむ故郷球団であり、東北6県合わせて1400万人の絆でもあるからだ。
〈東京ドームの座席配置図〉
(内野席は年間指定席が多数を占める)
プロ野球・巨人軍に潜む闇と影。過去の栄光から企業による内野指定席の大量購入に支えされているとはいえ、これからはそうもいかない。コロナ騒動による経営悪化で接待どころではない。その前に醜聞塗れの巨人戦(ご招待)ではもう誰も観たくあるまい。
〈常に閑古鳥だった川崎球場〉
年間ボックスが空席だらけの東京ドームを想像して頂きたい。そもそも外野席は狭い。収容人員(約44000人)の8割は内野に位置する。ロッテより弱い? いや、かつてロッテが本拠地としていた川崎球場よりもガラガラになるかも知れないのだ。大都会の喧騒から逃れて瞑想にでもふけるなら最適ではあるが・・
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