心配された台風8号は各地に大きな被害を出すこともなく無事に通過。記録的猛暑と荒天の繰り返しに苛まれた関東地方にも、やっと夏らしい日常が戻ってきた。だが安心は出来ない。早くも秋霖の足音が迫りつつある。ジメジメとした気候ほど厄介ものはない。梅雨同様、持病や古傷を抱えた者にとっては、これ以上ない辛い季節でもあるからだ。

〈8月18日現在の天気図〉

 もう一つ、こうした天候の悪化には特質がある。誰もが体調不良に悩むかと思いきや、そうでもない。真逆もまた多い。悪天候(気圧が降下する)ほど好調になるといった事実も忘れてはならない。

 1968年、メキシコで開催された夏季五輪の走り幅跳びでは、ボブ・ビーモン(米国)が、8m90という驚異的な世界記録を叩き出して金メダルを獲得した。それまでの記録を55cmも上回る大記録である。誰もが目を疑った。追い風2.0mに恵まれたとはいえ、とても人間業ではない。結局は、長距離を除く投擲や短距離走でも好記録が続出したことから、メキシコシティの高さ(海抜2400m)が注目された。 

 大リーグでも、コロラドロッキーズなど高地に位置する球場は、ホームランが飛び交う。理由は気圧が低いことにある。だからこそ「低気圧」であっても記録は出やすい。日本でも、小平奈緒や高木美帆に代表されるスピードスケート陣は、どんな悪天候であれ、強い低気圧の接近は(室内での競技会に限り)大歓迎なのだそうだ。

 地震ではどうか。前兆には必ず、頭痛に発熱、耳鳴りや関節の痛みに加えて、動悸に息切れと「体調悪化説」が多数登場する。否定はしない。でもその多くは認知的なバイアスであろう。自然界の動物は、鳴動を事前に察して、ほぼ無事に逃げ延びることで知られる。そう、不調どころか極めて『快調』なのだ。体調不良なら逃げ遅れて死滅してしまう。では、どうして快調になるのだろうか。

*【大地震を前にした気圧配置をご覧頂きたい】

〈関東大震災(9月1日)直前の天気図〉
(1923年8月30~31日)

 関東大震災は、九州に上陸した強い台風が新潟沖を通過した頃合であり、それまでの安定した夏場の気圧配置を一変させた直後であった。

 意外と知られていないが、2004年10月23日に発生の中越地震も台風が通過した直後である。この地震では死者68人、負傷者4805人といった大きな被害のほか、上越新幹線が脱線していることからも覚えている方は多いのではないかと思う。

《中越地震(10月23日)の直前にも台風が上陸していた》
(2004年10月20日)

《熊本地震(4月14日)の前日には九州南岸を低気圧が通過していた》
(2016年04月13日)

 《東日本大震災でも同じだ》

〈東日本大震災(3月11日)直前の気圧配置〉
(2011年3月10日の天気図)

 これは2011年3月10日の気圧配置だが、オホーツク海に発達した低気圧があることから、南岸低気圧が日本近海を通過した直後であることが分かる。東日本大震災の数日前(3月7~8日↓)には気圧が降下していたということだ。

(2011年3月7日の天気図)

 阪神淡路大震災でも条件は変わらない。下図の如く、強い冬型の気圧配置で吹き荒れた強風も収まり、移動性高気圧に覆われつつある穏やかな日和の中で発生している。

《参考》
 (1995年1月13日)
(1995年1月16日)
(阪神淡路大震災は1995年1月17日)

 このように、大きな地震ほど天候の変わり目に多い。強い低気圧(台風)の通過後であり、気圧配置が大きく変わった直後であって、いずれも穏やかな日和であることに注目して頂きたい。

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 随筆家で物理学者でもある寺田寅彦は、関東大震災の様子から「天災は忘れた頃にやってくる」の名言を吐いたが、これは長い歳月だけを意味するものではない。荒天明けも然り。久しぶりに陽光を浴びて活力に溢れ、「今日は何もないだろう」との思える最中だって『忘れた頃』なのである。

 因みに、今夏の日本列島は稀に見る高温だったようで、観測史上最多の猛暑日を各地で次々と更新。台風一過もあって、この数日は涼しく感じられるものの、問題はその後であろう。一転、猛暑が続くのか、数日を置かずして悪天候に逆戻りするのか。後者なら益々、大揺れだった過去に酷似する。ともあれ台風一過を含めて荒天明けの数日(晴れ間)は全国的にも要注意ではないか。近付く防災の日(関東大震災から99年)を前に・・。

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(おまけ)

《文明が崩壊した近未来》


 「天“才”は忘れた頃にってオイラのことだべが」

 「モウ〜、あまり期待しないでくんな」

 「・・・・😓」