函館の人の温かさが生み出した「海炭市叙景」 | ロコモコの気まぐれAsian日記

函館の人の温かさが生み出した「海炭市叙景」

風邪を引いて書く、書くといいながら1週間経っちゃいますが、先週の木曜日、
東京国際映画祭のコンペティション部門出品作で加瀬さんも出演されている
「海炭市叙景」を見に行ってきました。

さすが国際映画祭の看板をあげてるだけあって、舞台挨拶には通訳さんがついたり
映画には英字字幕が入るなど映画祭の特有の雰囲気が新鮮で楽しかったです。

肝心の加瀬さんはまぁ言うまでもなく超素敵でしたよ^^vえんじ色のセーターに中はYシャツにネクタイ、
最近好きなスタイルですよね~ドラマで忙しいであろうに顔色もよくて、相変わらずマイクは両手握り(笑)
武闘派瀬文を演じてる人とは思えないくらいホントいつ見てもナチュラルです。

今回の映画の監督熊切監督とは加瀬さん初主演作「アンテナ」以来でまた一緒に仕事できることが光栄でもあり、
プレッシャーもあったと率直に言ってました。確かにこの作品は今までの加瀬さんがやってきた役とはまたちょっと違うゆがみがある役で色々な役を今までやってきた中でも難しい部類に入る役なんじゃないかな~と思います。

この映画は佐藤泰志の小説「海炭市叙景」が原作で、原作はもともと何篇かのエピソードで構成されている
小説で作者の自殺で完結されていないんですが、映画は小説の中で監督が好きな章を中心に作られ、函館の街に生きるごくごく普通の日常と人の心の機微を非常に丁寧かつ繊細に描いています。

何より登場人物誰一人として、ドラマティックな要素があるわけじゃなく、
言うならば映画の主人公たちとしては格好よくない。でももともと監督はこの映画は
日常生活で陰日なたで生きる人たちを描きたかったというその言葉の意味が見た後によくわかる作品でした。

両親を亡くして支えあいながら生きていたのにリストラにあって職を失う兄弟、
都市開発のために立ち退きを迫られてる老女、母親の浮気で崩壊しようとしている家族、
家業を継ぎながらもほかにできることがあるんじゃないかと日々いらだちその苛立ちを妻や浮気で発散する男、
父親との確執を引きずってる息子、誰一人として人生を謳歌してる人は出てこず、
見る人によればこの映画は何なんだ!?と思うかもしれないけど、実生活で誰しもが悩みがない人なんて
いないわけで、かっこ悪くても生きていくしかない人間の悲哀に重なるところがほんの少しでもあると思う。
そういう共感が映画を見終わった後に余韻として残る映画でした。

加瀬さんが演じていたのは父親の家業を継ぎながらも自分にはほかにもっとできることがあるんじゃないか
新たな事業を始めるもなかなか、うまくいかず、再婚した妻にも苛立ち同級生と浮気に走る、
傍から見るとかなりひどい男で、浮気されてることでぶつける場所がない妻はその男の連れ子を
虐待するという明らかにこの人が原因で負のスパイラルが起こってるんじゃん!って思うんだけど、
私が加瀬さんのファンというのもあるかもしれないけど、この男の苛立ちがすごく理解できたんですよね。

不条理な苛立ちでほかの人を巻き込んでるんだけど、何かの壁にぶつかったとき誰もが一度は感じる不条理感、
もちろん自分に原因があるのはわかるけど、一度は誰かに責任をぶつけたい人間の弱さって本能に近いものがあると思う。子供が虐待されてると知ってもどうすればいいのかわからない自分の愚かさへの自己嫌悪、それをすごく丁寧に表現していたと思います。

加瀬さんの父親役はこの映画が初めてだけど、微妙な父子の距離感がこの男のぎりぎりの精神状態を
描いてるようで、壊れそうな感じがしながらも子供は自分に起こってる事と向き合おうとする強さが
かすかな希望に思えた。加瀬さんの出演は時間にして30分くらいだけど今まで加瀬さんがやってきた役で
1、2を争うくらい好きかも。一時期同じ系統の役を求められることに悩んだとこともあったと何かのインタビューで
言ってましたが、確実に殻を破り、新たなステージに行ってるんだなと実感できファンとしても嬉しかった。

そしてこの作品のすごいところは、実際の役者さんの中に素人の人が主要キャストで出てること。
加瀬さんの奥さん役や会社の従業員の人たちも地元の人など監督は予算がなかったので仕方なかった部分も
あったけど一度はやってみたかったことなのでいい経験になったと言ってましたが、
確かにプロと素人さんの壁みたいなものを感じることもあったけど、これが素人だと言われなければわからないほどほぼ違和感なく、また素人の人が入ることによってより普通の人の日常の描き方がリアルになったと思う。

映画制作の始まりてなんなんだろう?と思ったことてないですか?

もちろん監督がこういうものが撮りたいていうところからの始まりが大体かもしれませんが出演者ありきのものもあれば、大ヒット小説や漫画、ドラマの延長線上での映画化等々、始まりは色々あるんだろうけどこの映画はまさに函館の人たちの力がなくしては撮れなかった映画で、実際に制作費も個人投資という形で協力を求める形を取った画期的なケースで、投資した人たちは最後のエンドロールで名前が入るなど一人、一人の想いがこもった作品なんだなと実感。街をあげて映画製作に協力できる函館の人たちの温かさに純粋に感動した。

最近の日本映画はハリウッドに負けないCGやアクション、スケールを売りにするものも多いけど
日本映画だからできることってもっといっぱいあると思うんですよ。どこかの国の映画をまねするんじゃなく
日本人だからできる表現の仕方や、もっと時代に逆行してアナログな作り方をしたっていいと思う。
流れの速い世界で流れに逆行してもこういうものが作りたいとがんばる人たちの想いをもっと多くの人が
理解し支えていければ、もっと日本映画に奥行きと広がりが出てくると思うんですが。
そういう意味でこの「海炭市叙景」は新たな日本映画の可能性を示してくれたように思う。
出演者の南果歩さんが舞台挨拶で言ってましたが、小さな小さな映画の種がようやく実を結び
東京国際映画祭で上映されるまでになったその重みをひしひしと感じさせてくれる作品だと思います。
私はアジア映画が好きで香港、中国、台湾、韓国映画と色々見るけど最近段々これはこの国じゃないと撮れないという作品が減ってきているように感じてたけど「海炭市叙景」は日本でしか撮れない作品だと断言できる、
今の日本人が感じてる閉塞感を丁寧に描いている作品でした。