『ラストコーション色戒』は簡単には言葉で表せない
「色戒」を見てもう一週間以上経つんですが、未だ感想に困り果てています。
それは駄作だったからだというわけじゃなく、ご覧になった方ならわかると思うんですが
重い、重い余韻から解き放たれないから。一週間以上こんなに余韻が続く映画は
久しぶりでどう言葉にすればいいのかわからない。
この余韻の根源は何なのか自分で考えてみたら、誰一人報われなかった想いの重さなのかも。
日本統治下の上海、香港で今日明日の命も知れず生きる人々の中で
タン・ウェイ演じるワン・チアチーとトニーさん演じるイーと出会い、愛しあったのが運命なら、
悲しい結末も運命なのかもしれない。
でも運命という言葉で片付けてしまうほど、この映画は容易じゃない気がする。
人一倍警戒心の強いイーは次第にワン・チアチーに心を許していく過程が個人的にはなんとも物悲しかった
警戒心が強ければ強いほどイーの孤独を物語っているような気がしたから。
今まで誰一人としてあけることの出来なかった心の扉を開かせてくれたワン・チアチーにイーは
感謝の気持ちさえ持っていたのではないだろうか。自分を裏切るなんてことはないと思いかけてきた矢先の裏切りに、怒りよりも悲しみが先にあったのではと思う。
だからこそ残酷な決断をし、見方によっては自らの保身に走ったと思われてもしょうがない行動かもしれないが
残酷な形ではあるがワン・チアチーとの愛を誰にも邪魔させない形で完結させたとは考えられないだろうか。
誰一人幸せな人なんていなかった時代に、本能で愛し合えたワン・チアチーとイーは
結末がどうあれ一番幸せな人たちだったのではと思う。
トニー迷なんでどうしてもひいき目で見ちゃうところはありますが、やっぱりトニーさんすばらしかったです。
イーはイー自身も本当の自分がどれなのかわからないくらい色々な顔を持っていて、トニーさん自身も
それを表現するのはすごく大変だったと思うし、撮影時に精神的に追い込まれていたという話もすごくわかる。
それくらいイーとトニーさんが同化していた。まさに新たなトニーレオンがそこにいました。
そして今作のヒロイン、タン・ウェイちゃんもとてもよかったです。うぶな少女から浮世にまみれてどんどん大人の女性に代わってくる変化をきっちり演じていたと思います。アンリー監督が彼女をヒロインに選んだことは大正解だったと思う。今まで無名に近い新人女優だったからこそワン・チアチーに変な先入観なく、気持ちを寄り添えたことはこの映画においてはとても大きな成果だったと思うから。
ワン・リーホンもすごくよかったんですよ~抗日運動に身をささげる青年が知らず知らずのうちに戻れない場所まで行ってしまい、ワン・チアチーへの想いが強ければ強いほど工作活動にのめりこむしかなかった、その物悲しさを丁寧に演じていたと思います。
あのシーンに関しては映画の中にどっぷりのめりこめた人なら必要だったと思うと思うし、色々いわれているほどではないですよ。だから身構えずに見に行ってほしいな~と思います。やっぱりアンリー監督ってすごいな~と個人的には実感したんですよね。映画の本編2時間半以上にこんなに大きな余韻を与えられるんだからすごいと思いますよ。よくありがちな日本占領下の時代の映画だから、日本バッシングを入れてもよさそうですが、そういうものがなく、本能の愛をきっちり描いているんだから監督の力量には感嘆の声しかでません。
この映画は正直言って一人で見に行くのをおススメします。それはあのシーンのすごさとかじゃなく、多分映画が終わってから誰かに話したい気分にはなれないと思うから。自分の中で想いを整理するのに時間がかかると思うし、どんな言葉で感想をあらわせばいいのかわからないほど、胸の奥でじりじりと余韻が続く映画だから。受け止め方によっては賛否両論あるかもしれないけど、私はこの少し重い余韻がすごく好きでした。