世界最高の吹奏楽ポップス。 | "楽音楽"の日々

"楽音楽"の日々

音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

京都橘高校の吹奏楽部の演奏は、良くも悪くも「高校生らしい」ということをこれまでちょこちょこと書いてきました。

今回は、同じ高校生ながら「大人の演奏」をする吹奏楽部を紹介します。

 

 

近畿大学附属高校。

 
 

ここは、吹奏楽のフル編成ながら、実に素晴らしいポップスやジャズを聴かせてくれます。

 

とりあえず、吹奏楽ポップスの定番曲「宝島」を聴いてください。

 

 

あまりにも有名な譜面なので、演奏会のMCなどでも「ざっくり」紹介されて間違いも多々あるので、改めてきちんと書いておきます。

原曲は、フュージョン・バンドのThe Square(後に全米進出する時に、T-Squareと改名)が1986年にリリースしたアルバム「S・P・O・R・T・S」に収録された「TAKARAJIMA」です。作曲は、The Squareのキーボード奏者だった和泉宏隆氏です。和泉氏は、2021年に若くして亡くなっています。吹奏楽でよく演奏される「Omens Of Love」も彼の作曲ですね。

この原曲リリースの翌年、1987年の「ニュー・サウンズ・オブ・ブラス第15集」のために真島俊夫氏が吹奏楽編曲をしたものが、現在でも日本中で演奏されているのです。

 

で、近大附属の演奏は、理想的なテンポです。

楽しい曲なので勢いで早くなりがちなんですが、そこを抑えて絶妙なグルーヴを加えている絶妙な演奏だと思います。そのグルーヴを顕著に感じられるのは、中間部のパーカッション・セクションが活躍するパートですね。この曲のお手本として、全国の吹奏楽団に聴いて欲しい演奏です。

 

 

近大附属高校の吹奏楽部は、マーチングは全くやらずに座奏だけです。けれども、動画を見ていると全員が楽しそうに演奏していてノリ方が揃っているので、飽きることはありません。

 

この人数で、全員のノリ方が揃っている。おまけにソロを演奏する奏者も全てプロ並みのプレイ。

どうやったらこんな演奏ができるのか?

結論は、指導者です。

指揮・指導をしているのは、小谷康夫氏。高校の教員ではなく、本職は大阪交響楽団の首席ティンパニ奏者です。大阪音楽大学卒業で、京都橘高校の前顧問である田中宏幸氏の後輩になります。実際に交流がある、と田中氏がちらっと話していました。

小谷氏は、パーカッション全般を演奏しますが、若い頃はジャズのドラマーになりたいと思っていたほどジャズやポップスを愛する人なのです。

ポップスはもちろんですが、ジャズのノリを高校生に教えるには、指導者が叩けることは大きなメリットです。とても近道ですもんね。さらに、それを伝えるスキルも小谷氏には備わっているのだと思います。もう20年以上近大附属の指導に携わっているらしいので、彼の指導を受けたくて入学する生徒も多いんじゃないかと想像できます。その結果が、現在の近大附属の演奏に現れているのでしょう。

 

近大附属の演奏で特筆すべきは、スウィングのノリ方です。プロの演奏者をも凌駕する強烈なスウィング感は、無数にある吹奏楽団の中でダントツでトップです。

それがよくわかる演奏を聴いてください。アフロ・キューバンのリズムとスウィングのリズム変化を楽しめる名曲「チュニジアの夜」です。

 

 

こんなノリは、プロの吹奏楽団の演奏でも聴いたことがありません。アドレナリンが吹き出す、素晴らしい演奏。聴いて楽しい、見て楽しい。実に見事。

フルート&ピッコロの上昇音に、ホルンが奏でるメロディ。吹奏楽ならではの「音の万華鏡」。大人数によるダイナミックな表現。吹奏楽のジャズ・アレンジの最高峰の一曲と言えます。

 

ところで、吹奏楽によるジャズやポップスがプロのバンドより下に見られている理由の大きなひとつが、「書き譜」だと思います。

ジャズやポップスでソロを任される奏者に求められるのは、「アドリブ」です。その時の気持ちを即興演奏で表現することです。そんな経験の少ないアマチュアにとっては、大きなハードルです。そこで、吹奏楽ポップスの譜面では、いかにもアドリブをしているかのようなフレーズを、譜面に書いてあります。ただし、これはあくまでもガイダンスなのです。理想は、本当にアドリブで演奏することです。事実、この「書き譜」を忠実に再現しようとして残念な結果になるケースがほとんどです。

ところが、近大附属では、「書き譜」であっても他から持ってきたアドリブ風フレーズであっても、奏者が完全に自分のものにして演奏しているのです。その繊細な表現をどうやって指導しているんだろう?練習風景の動画がほとんどなくて、想像するしかありませんでした。そこに登場したのが、コロナ禍で苦しんでる近大附属を取材した、読売テレビによるニュース特集でした。

 

 

全国の学校や団体が経験してきた苦労ですが、その中から近大附属がピックアップされたかたちです。何度見ても涙してしまうドキュメントなんですが、この中でちらっと小谷氏がアドリブ・フレーズを指導している場面が出てきます。「そうそう。」なんて思ってしまう指摘の仕方ですが、そこまで細かく指導しているんだと知って驚きました。

 

さて、このドキュメントの中で、彼らが目指していた定期演奏会の動画もアップされています。その中から、近大附属でしか表現できない名演奏を2曲聴いていただきましょう。

まずは、最近吹奏楽界で大人気の「熱帯ジャズ楽団」演奏曲の吹奏楽アレンジ「スペイン」です。熱帯ジャズ楽団のトロンボーン奏者・中路英明氏のアレンジに、宮川成治氏の吹奏楽アレンジの人気曲です。ただ、原曲のメロディがもともと複雑でメカニカルなので、吹奏楽で演奏するにはまずそこを揃えるのが難関です。さらに、ラテンのノリを体で理解していないと、シンコペーション(強拍の位置が変わる、ラテン音楽に多いリズム)を正しく表現できないのも、アマチュアにとってはキツいところです。

 

 

いかがでしょう?途中で3連のリズムになるところなんか、アドレナリンが吹き出します。

ここで注目していただきたいのが、フルートからソプラノ・サックス、ヴィブラフォン、ティンバレスと続くソロの素晴らしさです。プロ奏者が逃げ出すほどのプレイです。

 

もうひとつの曲は、Benny Goodmanの演奏でジャズのスタンダードになった「メモリーズ・オブ・ユー」です。

今年度の京都橘のレパートリーの1曲ですね。あれはあれでなかなか見事ですが、こちらはプロも敵わない極上の演奏です。

 

 

クラリネットとヴィブラフォンの繊細な表現力。オリジナルのBenny GoodmanもLionel Hamptonも脱帽するに違いない名演です。ここで注目したいのが、伴奏に徹しているバンドです。レンジの広さが気持ち良く多幸感溢れる表現は、吹奏楽の楽器編成でしか成し得ない気持ち良さです。

 

 

 

ということで、世界最高の吹奏楽ポップスを演奏する近大附属高校吹奏楽部を紹介しました。

京都橘や周辺の吹奏楽部をかなり早い時期から撮影してこられた「I LOVE BRASS」さんも、ここを度々撮影されています。ここでは2019年の「八幡市サマーブラスコンサート2019」をご覧ください。全編見どころばかりです。

 

 

辛口の音楽ファンも黙らせる素晴らしい演奏。これからも、近大附属はチェックし続けていくつもりです。

 

 

 

 

現役の時も、本当にアドリブを演ってたと思われるクラリネット奏者が、卒業後に近大附属のOB・OGを中心にして結成したのが「KSP ALL STARS」です。

「かっこいい吹奏楽」をテーマにして活動しています。

再び「I LOVE BRASS」さん撮影の動画をご覧ください。

「The Live! 2022」です。

 

 

ここでも小谷氏が、指導・指揮しています。

とても素晴らしいんですけど、時々普通のビッグバンドの演奏かと勘違いしてしまいます。ジャズのビッグバンドとは似て非なるもの、ということをもっと打ち出していくととっても魅力的になると思います。常設のクラリネットやフルートがもっと活躍すると、その色が顕著になる気もします。

高校と比べると圧倒的に合同練習の時間が少ないというハンデは全ての一般バンドが抱える悩みですが、そこを含めてKSP ALL STARSの今後の活動にも注目していきたいと思います。