コードとは、何か?

 

 刻まれたもの。文字。命令。私の場合は一つの命の残り香と感じている。

 

 私の知性の集合体は恐らく脳にあるのだろう。その器官も曖昧な『ミディアム』であるため、知識のコーディングとメンテナンスを自身で行わなければならない。もちろん、フランクリンにも助けてもらっているが。

 

 そのコーディングとメンテナンスを簡略化する道具が、先ほどのホールカード。

 パンチカードに改造を施したものだ。複数枚のパンチカードを重ね合わせ、それを切り替えるコードを内蔵したミディアム・ドライヴ(私の首にあるもの)に差し込むとカードの穴を組み合わせて多くの情報を得ることが出来るもの。歪な生命に与えられた謎の進化ツール。ミディアム・メディアといったとろこか?

 

 ちなみに、私にも一つの名前が刻まれていた。

 そのコードは Noble Savage 007 フライデー。

 

 一体これが何を意味するのか? 私にはいまだにわからない。私にはかつて友がいた記憶がある。曖昧だが。だが、その通りだとすると私は大変な者達と友人であったことになる。きっと記憶違いだろう。

 

 では、私の名前は何か。何と名乗っているかだが、少し昔の記憶を手繰るとしよう。ミスター・フランクリンとの会話だ。

 

―――――

 

「君の名前だが出来るだけ平凡な感じにしたいな」

「構いませんが。何か理由が?」

「最近、君の友人と思しき者達の活躍が華々しくてね。似たような行為をするものが増えた。つまり私もだが。書き手は他との差別化を図っているのか、目立つことが目的なのかわからんが、煌びやかな名前が多いんだよ。それも悪くはないが、私は別の何かを模索したい。そういうことだ」

「なるほど。では、どんなものに?」

「とりあえず、ラストネームは事典から拾うのがいいかもしれん。Aの最初はアボットか。だが、これは誰かと重なりそうだからやめておこう。Bのボンドでいこう」

「ファーストネームは私が選んでもいいですか?」

「いいとも」

「そうだな……J のジェームズでお願いしたい」

「いいだろう。ジェームズ・ボンドか」

「それと、ミドルネームが欲しいんですが?」

「ミドルネーム? 構わんが、何故?」

「まあ、ミディアムですからね」

「ふむ、では何と」

「ゴールドストーンと」

「ゴールドストーン……理由はあるのかね?」

「さっき、道端に落ちていた紙に書いてありました。何か惹かれるものがあったので。あなたにあやかったんですよ。となりにあったヴェルヴェット・アンダーグラウンドというのも捨てがたかったけど」

「よし、わかった。君の名前、そして私達のクリーチャの名前は、ジェームズ・ゴールドストーン・ボンドだ」

 

―――――

 ジェームズを選んだのにも少し理由がある。J I の後ろにあるからだ。先を行くために前の文字を選ぶのもいいかもしれない。だが、私は今アイザックの後を追っている。そしていずれは自身の道を歩みたい。その時には前も後ろもない状態になりはしないだろうか? まあ、そんなもの。おまじないのようなもの。