2.対処方法

 現状『虐殺の文法』への対処方法としては『英語を使わないこと』ということになるだろうが、ジョン・ポールが様々な地域で活動していたことを見ると、多数の言語にこの文法が感染し、処理できぬまま独り歩きを続けているものと考えられる。ウィルス感染の封じ込めの如くどうにかなっていることも考えられるが、今後『新種』が発生しないとも限らない。そのための対処を考えた。

 

 ヒントとなったのは、ジョージ・オーウェルという作家が書いた小説『一九八四年』である。その世界のオセアニアの公用語『ニュースピーク』というもので、思考の範囲を縮小するものとされている。要するに文章を幾つかまとめ、それを一つの単語で表すのである。思想統制に使われる酷い手法だが、防御手段としては有効である。

 まず、前項に示した兆候が言葉の端々に現れ始めたら、自分が話す言葉に注意を向ける。その際に話そうとする言葉を『ニュースピーク』方式で短くまとめ、実際にことばにして話す文章と対応付けることを試みる。

(※何を言っているか解らないと思うが、とにかくやってみることから始めて欲しい。自分が発することばの感覚を基に、自分なりの防御手段を構築する。それは各々にしかできない。そして命がかかっているのだ。)

 やや無茶な方法だが、おそらく効果はある。あることばが消えれば、そのことばが表す概念も消える(らしい)。他者と自分の関係を維持しつつ、それらを基に攻撃に至るものも消すことが出来るだろう。だが、当然それでは日々の生活が成り立たない。成り立つようにするものが『ニュースピーク』と『二重思考(ダブルシンク)』である。

 つまり現状の言語から独自の『ニュースピーク式言語』へ徐々移行し、尚且つ通常の言語を話していると思考する。それが出来れば当面の危機は回避される。

(※当然、理想論である。現実はそううまくはいかない。各々の知恵が試される。)

 

 ~少々脱線するが、希望的観測への道筋も含む。

 この手の手法は人類の歴史上数多く見られたことである。いわゆる『略語』の類は世界各地にある。アメリカの組織に顕著な三文字で表されるものなどは、それ自体が代名詞と化している場合もあり、動詞への変化も可能と思われる。

 そして興味深いものがユダヤの秘奥義『カバラ』である。重要な秘密を隠すために使われる手法が、ゲマトリア、ノタリコン、テムラー、というもので、それぞれが数値変換法、省略法、文字置換法である。言葉遊びの類も含むようだ。このうちのノタリコンで表されるのが、キリスト教の祈りの言葉『アーメン』である。もともとは『アドナイ メレク ナーメン』で、意味は『主そして信仰に賢き王よ』ということらしい。

 これだけ馴染みのある物が略されてどうにかなっているなら、日々の生活で使われることばもどうにかなるのではないか、と考えている。~