近年の組み込みコンピューティングおよびシングルボードコンピュータ(SBC)市場において、Rockchip 系 SoC は安定した存在感を示しています。その中でも RK3566 と RK3588 は、設計者やプロダクト開発者の間で頻繁に比較対象となる2つのプラットフォームです。ただし、この両者は単なる性能差ではなく、設計思想・適用レンジ・拡張性のレベルが根本的に異なります。
本稿では、公開されている技術情報と実装観点に基づき、RK3566 と RK3588 の差異を体系的に整理します。なお本記事は、Rockchips.net に掲載された比較解説を参考にしつつ、内容を再構成した独立記事としてまとめています。
世代差ではなく「クラス差」として理解するべき2つのSoC
RK3566 と RK3588 は同一ファミリーに属していますが、製品ポジションは明確に分かれています。RK3566 は低消費電力・安定動作・コスト効率を重視したメインストリーム向け SoC であり、産業制御端末、軽量エッジ端末、IoT ゲートウェイなどを主なターゲットとしています。一方の RK3588 は、AI 処理、マルチメディア処理、高速 I/O を前提としたハイエンド設計であり、エッジ AI ボックス、高性能 SBC、映像処理ノードなどを想定したフラッグシップクラスのチップです。
したがって両者の比較は「どちらが優れているか」ではなく、「どの設計要求に対してどちらが適合するか」という観点で行う必要があります。
CPU アーキテクチャが示す設計思想の違い
RK3566 は Cortex-A55 を4コア搭載する構成で、電力効率と熱設計の容易さを重視したアーキテクチャです。A55 コアはピーク性能こそ限定的ですが、連続運用時の安定性と消費電力あたりの性能に優れており、常時稼働型の制御端末や軽量 Linux ワークロードとの親和性が高い設計です。
これに対して RK3588 は Cortex-A76 と Cortex-A55 を組み合わせた big.LITTLE 構成を採用しています。高性能コアと高効率コアを役割分担させることで、重い並列処理からバックグラウンド処理までを柔軟に処理できる設計です。この構成は、コンテナ実行、同時ストリーム処理、複数サービス常駐型のエッジノードなどにおいて明確な優位性を持ちます。
グラフィックスと表示系能力の開き
GPU 世代の差も無視できません。Rockchip RK3566 は Mali-G52 系 GPU を採用し、組み込み GUI や標準的なデスクトップ表示には十分な性能を提供します。産業用パネルや制御 UI、情報表示端末などでは実用上の不足はほとんどありません。
一方、RK3588 に統合されている Mali-G610 MP4 は世代的にも性能的にも大きく前進しており、高解像度 UI、3D 表示、GPU 支援処理などで余裕があります。表示品質や描画負荷が設計要件に含まれる場合、この差は製品体験に直接影響します。
AI 処理能力の有無が設計を分ける
現在のエッジ機器設計において重要度が増しているのが AI 推論性能です。この点で Rockchip RK3588 は明確な方向性を持っています。専用 NPU を内蔵し、数 TOPS クラスの推論処理をローカルで実行できるため、画像認識、物体検出、顔認証、スマート監視などの用途をチップ単体で完結できます。
RK3566 は AI を完全に想定外としているわけではありませんが、専用の高性能 NPU を前提とした設計ではありません。そのため AI ワークロードは CPU または GPU ベースの軽量推論に限定されます。AI を中核機能として組み込むプロダクトでは、アーキテクチャ選択の段階で RK3588 が事実上の前提となります。
メディア処理パイプラインのスケール差
映像処理能力もまた、両者の設計ターゲットをよく表しています。RK3566 は 4K クラスの動画処理に対応し、デジタルサイネージや標準的なストリーミング端末には十分な機能を備えています。
対して RK3588 は、より高解像度・複数ストリーム・高度なエンコード/デコード処理を想定したメディアエンジンを統合しています。複数カメラ入力、同時配信、リアルタイム解析などを含むビデオパイプライン設計では、この差は単なる余裕ではなく設計成立性に関わります。
メモリ帯域と I/O 拡張性
メモリおよび I/O 周りでも方向性の違いは明確です。RK3566 は実装しやすく安定性の高い構成を取りやすく、産業用途インターフェースとの統合に適しています。設計のシンプルさとコスト最適化がしやすい点は量産機器で重要です。
RK3588 はより高速なメモリ規格と広い帯域を活用でき、高速ストレージや拡張インターフェースとの組み合わせを前提とした設計が可能です。高スループットを要求するアプリケーションでは、この余裕がシステム全体のボトルネック回避につながります。
主要仕様の整理
| 項目 | RK3566 | RK3588 |
|---|---|---|
| CPU | Cortex-A55 ×4 | Cortex-A76 ×4 + Cortex-A55 ×4 |
| 性能クラス | メインストリーム / 省電力 | ハイエンド / 高性能 |
| GPU | Mali-G52 系 | Mali-G610 MP4 |
| NPU | 限定的 | 高性能 NPU(数 TOPS クラス) |
| メディア | 主に 4K クラス | 高解像度・多ストリーム対応 |
| メモリ帯域 | 標準帯域 | 高帯域構成が可能 |
| 主用途 | IoT・産業端末・軽量 SBC | AI・映像処理・高性能 SBC |
結論 — 要件定義がすべてを決める
RK3566 と RK3588 は、同一ラインの上下モデルではなく、異なる設計カテゴリーに属する SoC として理解するべきです。低消費電力・コスト効率・長時間安定動作を重視するなら RK3566 は非常に優れた選択になります。一方で、AI 推論、リッチメディア処理、高負荷並列処理、拡張性を前提とする設計では RK3588 が適切な基盤となります。
重要なのはスペックの優劣ではなく、プロダクトの処理モデル、熱設計、ソフトウェア構成、将来の機能拡張を含めた要件定義との整合性です。SoC の選択は部品選定ではなく、アーキテクチャ決定そのものと言えます。
原文参考記事
Rockchips.net — RK3566 vs RK3588: Key Differences and Performance



