【今日の1枚】Circus/Movin'On(サーカス/ムーヴィン・オン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Circus/Movin'On
サーカス/ムーヴィン・オン
1977年リリース

圧倒的なテクニックで畳み掛ける
技巧派プログレッシヴロックの名盤

 ギリシャ神話に登場する天馬ペガサスをトレードマークとしたスイスの技巧派プログレッシヴロックグループ、サーカスが1977年に発表したセカンドアルバム。そのサウンドはドラム、ベース、サックス、フルートという変則的な編成でありながら、スリリングなドラムとキング・クリムゾンを想わせるサックス&フルートを中心に絶えず畳み掛ける展開が凄まじく、前作よりもさらに緻密さと躍動感がアップした内容になっている。その変則スタイルから紡ぎ出された硬派な音像はまさにプログレッシヴであり、グループの最高傑作となった名盤である。

 サーカスはスイス北西部のライン川のほとりにある都市バーゼルで、1972年に結成されたグループである。メンバーはジャズ出身のフリッツ・ハウザー(ドラムス)、マルコ・チェルレッティ(ベース)、フォークを主体としたプログレッシヴロックに取り組んでいたローランド・フライ(ヴォーカル、テナーサックス、12弦ギター)、アンドレアス・グリーダー(フルート、サックス)である。メンバーの楽器を見て分かる通り、当時のプログレッシヴロックで不可欠だったエレクトリックギターとキーボードを排しており、フルートとサックスの金管楽器とベースとドラムスのリズムセクションのみというユニークな編成となっている。結成当初の彼らはスタジオでセッションを行いつつ、地元のバーゼルを中心にライヴステージをこなしていたという。彼らが音楽的に影響を受けたのが、イギリスのキング・クリムゾンであり、特に1972年以降のパーカッショニストのジェイミー・ミューア、ドラマーのビル・ブルーフォードが参加した『太陽と戦慄』以降の即興演奏に着目していたという。このリズムセクションをベースに本来であればキーボードを配置するところにフルートとサックスを主体にしたのは、ジャズ畑出身のハウザーとチェルレッティのこだわりといったところだろう。この編成で相当時間をかけて曲作りを行っており、ジャズとクラシックを取り入れた独自のプログレッシヴロックのスタイルを確立している。スイスではすでにサーカスの知名度は高くなっており、結成から4年後の1976年の4月に満を持してスイスのハロルド・ブロベルのスタジオでレコーディングを行っている。こうして同年にスイスのインディーズレーベルであるツィットグロッゲから、デビューアルバムがリリースされることになる。そのアルバムはグリーダーとフライが以前に取り組んでいた実験的なフォークが垣間見える一方、ハウザーのジャズ色の強いドラムス、チェルレッティのドライヴ感あふれるベースが一体となった独自性の強いサウンドとなっている。リリース後の1976年12月に彼らはバーゼルのハンス・ヒューバー・ザールで75回目のギグを行い、ここで本アルバムに収録している22分の及ぶ大曲『ムーヴィン・オン』を披露している。1977年の5月にスタジオに入ってアルバムレコーディングを開始し、同年に5曲を収録したセカンドアルバムを発表することになる。本アルバムはタイトル曲『ムーヴィン・オン』を筆頭とする圧巻の演奏を繰り広げているだけではなく、時に室内楽を思わせるクラシカルかつフォーキーな一面を覗かせているなど、変則スタイルであるグループの真価が最も発揮された傑作となっている。

★曲目★
01.The Bandsman(ザ・バンズマン)
02.Laughter Lane(ラフター・レーン)
03.Loveless Time(ラヴレス・タイム)
04.Dawn(ドーン)
05.Movin' On(ムーヴィン・オン)
★ボーナストラック★
06.Don't Want To Be Fooled Again(ドント・ウォント・トゥ・ビー・フールド・アゲイン)

 アルバムの1曲目の『ザ・バンズマン』は、強固なリズムセクション上で前作よりも力強さが増したフライのヴォーカルパートと、アコースティックギターやサックス、フルートによる緩急のあるアンサンブルとなった楽曲。ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター的な要素があるものの、楽器の組み込み方に工夫があり、変則的な編成とは思えない彼らのアイデアが詰まった逸品となっている。2曲目の『ラフター・レーン』は、12弦ギターのアルペジオを活かしたフォーク調のイントロから、ハウザーのヴァイヴが加わった静謐なインタープレイ、そして美しいフルートの音色と共にフライの抒情的なヴォーカルが奏でられた楽曲。後半はハウザーのドラミングを合図に力強いギターのカッティングと2本のサックスによるスリリングな演奏に変化していく。3曲目の『ラヴレス・タイム』は、水底から浮かび上がるようなフルートとギターの音色から柔らかなヴォーカルが響き合い、次第にパワフルなパーカッションと共にコーラスやサックスによるアンサンブルに変わっていく緩急を活かした楽曲。その後は幽玄なフルートの音とヴォーカルを経てヘヴィネスな展開となり、光と闇を描いたようなコントラストが素晴らしい内容となっている。4曲目の『ドーン』はハウザーのヴァイヴから始まり、チェルレッティのゴリゴリしたベース音を中心とした多彩な楽器を用いた前衛的な楽曲。キング・クリムゾンの『太陽と戦慄』を思わせるミステリアスな音空間から、今度はサックスとフルートが支配したスリリングなインタープレイへと変貌する。5曲目の『ムーヴィン・オン』はレコードのB面全てを費やした22分に及ぶ大曲。畳みかけるようなリズムセクションとファズを利かせたギター、飛翔するフルートといった疾走感から序盤からいきなりクライマックスともいえる展開となっている。4分辺りからコーラスをメインとしたパートとなり、途中からスピーディーなリズムに乗せたフルートやギターの演奏が混沌ともいえるめくるめく展開となっており、次第に収束して静謐なフルートとギターをバックにしたヴォーカルパートに突入する。11分辺りからファズベースやディストーションギターを絡ませたうねりのあるダークネスなアンサンブルとなり、今度は美しいフルートのメロディに乗せたヴォーカルとなる。チェルレッティの独特なベースラインを加えたヴァイブとフルートといったメロウな流れを経て、最後はサックスをギター、フルートによる怒涛とも言える圧倒的な演奏は幕を閉じている。2021年のリマスター盤にはボーナストラックとして、インスト中心のライヴナンバー『ドント・ウォント・トゥ・ビー・フールド・アゲイン』が収録されている。

 本アルバムは前作よりも、テクニカルな演奏とスリリングさがアップされたことで話題となり、同年にリリースされたアイランドの『ピクチャーズ』と並ぶスイスが誇るプログレッシヴロックの名盤となる。1978年には4人のメンバーに、地元で親交のあったグループから、ツインギター、オルガン、2人のコンガ奏者、2人の女性シンガー、2管を加えたトータル13人編成によるサーカス・オール・スター・バンという名で唯一のライヴ盤をリリースしている。サーカス本来の音楽性とは異なるものの、ホテル・ナショナル・ベルンで録音されていることからパーティ的な雰囲気のあるライヴアルバムとなっている。1980年にフルート奏者のアンドレアス・グリーダーが脱退し、代わりにオルガニストのステファン・アマンが加入。オルガンとリズムセクション、サックスという編成で挑んだサードアルバム『フィアレス・ティアレス・アンド・イーヴン・レス』をリリースする。そのアルバムはベーシストのチェルレッティがエレクトリックギターを持ち替えて演奏するなど、新境地を開いたアルバムとなっている。その後、同アルバムからシングル『ザ・ナイト・ステップ』をリリースするが、ドラマーで中心メンバーだったフリッツ・ハウザーが脱退したことをきっかけにサーカスは解散することになる。ハウザーはアマンと先に脱退したグリーダーと共に、ブルー・モーションを結成している。1982年にリリースしたブルー・モーションの唯一のアルバムは、事実上サーカスの4枚目のアルバムに相当する即興性のあるスリリングな演奏を披露している。後にハウザーはサックス奏者のウルス・ライムグルーバーとの共演が多く、スイスで最も忙しいドラマーの1人となっている。マルコ・チェルレッティはスティック奏者として活躍し、ローランド・フライはスイスでソロシンガーとして独立。フライはレイジー・ポーカー・ブルース・バンドを経て、ロリ・フレイ&ザ・ソウルフル・デザートを結成してスイス最高のシンガーの1人となっている。


 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はキーボード&ギターレスという変則的な編成でありながらも圧巻の演奏を繰り広げたスイスのプログレッシヴロックグループ、サーカスのセカンドアルバム『ムーヴィン・オン』を紹介しました。前作は青地にトレードマークであるペガサスが小さく描かれていましたが、本アルバムではジャケットを覆うように描かれていて、まさしく彼らの自信の表れそのものを感じます。本レビューでは先にデビューアルバムを紹介していますが、実験的なフォークサウンドとジャズ出身のフリッツ・ハウザーとマルコ・チェルレッティによる強靭なリズムセクションが冴えたアルバムとして最初に紹介した次第です。そのポテンシャルを示しながらも、グループの真価が最も発揮されたのが本アルバムということになります。今では2021年にサーカスの4枚のアルバムがCDリマスター化されていますが、本作の『ムーヴィン・オン』以外の国内CD化はそれまで果たされていなかったそうです。それだけ本アルバムは突出して人気が高かったことが窺えます。日本のプログレッシヴロックファンでも、サーカスと言えば『ムーヴィン・オン』と言われるほど愛着があったのではないでしょうか。

 さて、本アルバムですがデビューアルバムからキーボードやエレクトリックギターを排したドラム&ベース、フルート、サックス、アコースティックギターといったユニークな編成はそのままに、ハウザーのあおるようなテクニカルなドラミングを筆頭としたヘヴィなジャズロックとなっています。スイスと言えばユニヴェル・ゼロやアール・ゾイと並ぶ暗黒系チェンバーロックのアイランドを思い浮かべてしまいますが、本作は技巧的でありながらもメル・コリンズが在籍していたキング・クリムゾンや全盛期のイエスの影響が感じられるサウンドに近くなっているのが特徴です。フリッツ・ハウザーの手数が多く畳みかけるようなドラミングは相変わらず凄いのひと言ですが、本アルバムの立役者はマルコ・チェルレッティの独特とも言えるベースラインにあると思います。というよりチェルレッティのドライヴ&ゴリゴリしたベースが、それぞれの楽曲を混沌&邪悪にしていている感じがします。特に3曲目の『ラヴレス・タイム』と5曲目の『ムーヴィン・オン』は顕著になっています。それでもダークネスに陥らないでいるのは、メロディアスなフルートとグレッグ・レイクばりのヴォーカルがあるからではないでしょうか。前作のような実験性のある楽曲は少なく、やや遊びのあるインタープレイが見られるものの構成美に優れた素晴らしいアルバムだと思っています。

 本アルバムは英国のキング・クリムゾンやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターを彷彿とさせるスリリングな展開が魅力的な作品です。スイスが誇るプログレッシヴロックの金字塔とも言われた本アルバムをぜひとも味わってほしいです。

それではまたっ!